2023-04-14

学校図書館支援のためのエビデンス——SLILの学校図書館政策に関する講演③

SLILの学校図書館政策に関する講演シリーズ

① アメリカのスクールライブラリアンは何をしているのか?(4月9日)

② 図解「地域学習リソース拠点の必要性」(4月13日)

③ 学校図書館支援のためのエビデンス(4月14日、この項目)


 SLIL講演を振り返って、学校図書館を国の教育政策として位置付けるための具体的方策についてもっと考察すべきと考えた。それは、参加者の事後アンケートでも望む声が少なくなかった。そこで、今後どのような実践とそれに関わる研究が必要なのかについてメモしておきたい。大きくは理論的研究と実践研究、それらを基にした政策提言という順序で進める必要がある。

1)理論的研究

学校図書館が教育課程に寄与するという場合に、そこにある資料や情報を収集・管理・提供するという機能を示すだけでは十分ではない。それでは何が可能か。以下は半ば思いつきではあるが重要な理論的研究のテーマである。

ジョン・デューイの教育学と学校図書館との関係:デューイの探究(inquiry)概念が探究学習の原点にあることについて講演で触れたがまだきちんと解明されていない。ウィーガンドの『アメリカ公立学校図書館史』にもほんの少ししか触れられていない。ここは、デューイの教育学⇒[アメリカ進歩主義教育協会⇒ニューディール期の学校図書館ハンドブック⇒]『学校図書館の手引』⇒図書館教育研究会、という影響関係が考えられる。[ ]の部分がブラックボックスになっている。アメリカでもこうした理論研究は行われていない。

デューイ『学校と社会』より

デューイの探究概念の哲学的研究:これはすでにアメリカでも日本でもある程度は進められている。日本だと、早川操『デューイの探究教育哲学:相互成長をめざす人間形成論再考』(名古屋大学出版会, 1994)、藤井千春『ジョン・デューイの経験主義哲学における思考論:知性的な思考の構造的解明』(早稲田大学出版部, 2010)、谷川嘉浩『信仰と想像力の哲学:ジョン・デューイとアメリカ哲学の系譜』(勁草書房, 2021)などがある。これらで不足している外部知、間接知についての考察を加えることが重要なポイントとなる。

この本の目次終章を参照(画像をクリックのこと)

国際バカロレア(とくにIBDP)のカリキュラムの検討:国際バカロレアが知の獲得の方法として、知の理論(TOK)、課題論文(EE)を課している。これらが学校図書館を前提としていることについて、アンソニー・ティルク『国際バカロレア教育と学校図書館:探究学習を支援する』(学文社, 2021)で詳しく述べられている。また、とくにTOKが一般的科目と探究学習をつなぐ重要な役割を果たしているとの観点から学会発表をしたことがある。


2)実践的研究

学校図書館の実践:講演記録のなかで、山形県鶴岡市と岡山県岡山市の学校司書配置について触れた(記録 p.19-20)。これらは歴史ある実践事例であるが、現在の学校図書館政策にうまくつながっているのかどうかを検証する必要がある。また、沖縄の学校図書館が本土とは制度的な経緯が異なっていることがどのように関わるのかについて別に検討が必要である。他にも、学校図書館政策に力を入れている自治体あるいは学校は少なくないのだが、それが個人の努力だけでなく組織として成果を挙げるに至っているかどうかが問われる。

・地域学習リソース拠点の実践:その意味で、古くから学校図書館支援センターが置かれている千葉県市川市の事例を見ておきたい。市川市教育委員会に教育センターがあり、その事業のなかの「教育課程や教育内容・方法の調査研究に関すること」として、「公共図書館と学校を結ぶネットワーク」があり、次に「教育におけるデジタル化の推進に関すること」に「学校情報化研究事業」「市川GIGAスクール構想 (ご家庭でのご使用)」がある。市内の学校で共通する資料や教材、教育情報が扱われていることが重要だろう。学校図書館には会計年度任用職員が配置されている。次の図のようにデータと物流のネットワークが形成されており、これがGIGAスクールと結びつくと、教材コンテンツの契約と配信・利用が可能になる可能性がある。

講演参加者から新潟市の学校図書館支援センターの事例について教えていただいた。確かにここの報告書をみると、市立中央図書館に支援センターを置いて、正規職5人を含めて市内全校に職員を配置して学校図書館が読書センターのみならず、学習センター、情報センターの役割を果たそうとしている様子がうかがえる。毎年報告書を出しており、充実した活動のように見えるが、今後必要なのはこれを教育評価のサイクルのなかで位置付けることだろう。つまりこの活動がどのような教育効果を挙げたのかを評価することである。また、他のところの参考にするためには、これがどのような経緯でできたのか、そのための準備などについても明らかにされるとよい。また、他に類似の事例があるのかどうかについても情報が交換されるとよい。

県単位の学校図書館支援センター:鳥取県では、県立図書館に学校図書館支援センターが置かれていることは知られている。県の規模が大きくなければ、県立図書館が県域の教育委員会や学校に対してこうした支援機能を積極的に果たすことが有効な場合がある。これについても、どのような教育効果に結びついたのかについての評価が行われるべきだろう。


とっとり学校図書館活用教育推進ビジョン

学校図書館支援センターの可能性もともと文部科学省の事業として始まったものである。その経緯について書かれたものはたくさんあるが、次の文献が現状がどうなっているのかを検討している。紹介されているのは、福岡県小郡市、大阪府豊中市、福岡県福岡市、鳥取県である。

 また、国会図書館の国際こども図書館の次のページでは全国の学校図書館支援のための仕組みが列挙されていて、そのなかで基礎自治体で「学校図書館支援センター」をもつものがいくつかある。


こうした支援センターの今後の可能性を探るのも実践的研究で是非進めたい。以下は、やや踏み込んだ議論となるが参考までに示しておく。

<地域学習リソース拠点を考えるために>

 先の新潟市や講演記録で触れた岡山市を含めてここに挙がっている基礎自治体は、学校図書館政策の先進自治体と言うことになるのだろう。公立図書館に支援センターをおき、学校図書館に対する支援業務を行う職員を配置するのが中心的な業務である。その職員は多くの場合、指導主事という身分で学校の管理職を経験した人が担当する。支援としては、研修や相談業務を行う。こうしたセンターを置いている基礎自治体は学校司書を専任配置(複数校兼務ではなく一校一人という意味)していることが多く、資料やデータベースについては追加的な予算をもっていることも多い。
 こうした現状が、講演で提案した「地域学習リソース拠点」とどのような関係になるのかが問われるだろう。この構想の具体的な像は講演では示していないが、少なくともこれは「支援の場」よりは発展的な「リソース拠点」であるので、資料や教材などの教育リソースを管理し個々の学校図書館に対してネットワークを通じて提供できるような態勢がとられていることが必要である。つまり、支援というのは個々の学校図書館が発展途上であるものを支援するという建前だが、リソース拠点はそれぞれが独自の活動を行うがそこで不足するものを提供するというイメージになる。いわば、個々の学校図書館は市町村立図書館であり、このリソース拠点は県立図書館にあたるものと考えてよい。
 支援センターをリソース拠点に展開するためには、やはり、学校図書館を支援した結果何が可能になったのかの評価が必要となる。支援センターを置かない他の同規模の自治体と比べて、学校図書館の利用に違いがあるのか、読書や探究学習に何らかの変化があるのか、さらにはその教育効果が示せるのか、そうしたエビデンスが求められる。
 

2023-04-13

図解「地域学習リソース拠点の必要性」:SLILの学校図書館政策に関する講演②

三回のシリーズの2回目である。

① アメリカのスクールライブラリアンは何をしているのか?ーSLILの学校図書館政策に関する講演

② 図解「地域学習リソース拠点の必要性」:SLILの学校図書館政策に関する講演(この項目)

③ 学校図書館支援のためのエビデンス——SLILの学校図書館政策に関する講演

講演会「学校図書館改革を戦略的に考える:探究学習、教育DX、情報リテラシー、読解力...」の記録と事後アンケートのまとめがSLILのHPにアップされた。


講演サイト:
記録:

ここを見れば、当日私が使用したパワーポイント資料およびコメンテータの新居池津子さんの資料、講演の筆記録(修正済み)および質疑の概要が掲載されている。ただ、なにぶん2時間のやりとりが40ページ以上にわたって詰め込まれている。また欲張って歴史的課題から現代的な課題に至るまで述べている。質疑は十分な時間がとれなかったので、記録では少し展開して回答している。追加の注で参考文献も掲載しておいた。さらには、別ファイルになっている、参加者の事後アンケートでは参加者からの疑問、意見などが寄せられていて、それについてはお答えできていない。

ということなので、ここでは思い切って講演でお話ししたかったことの要点のみをまとめて図を用いて示すことにしたい。また、その講演やその後のやりとりで不十分だった部分を補って首尾一貫した政策提言まで述べておく。それにどのようにアプローチするかという今後のリサーチの課題については「SLILの学校図書館政策に関する講演③」として次に廻すことにした。


戦後学校図書館政策の振り返り

 次の図で示しているように、戦後学校図書館政策史を教育政策史と関わらせて三期に分けている。それぞれに「問題の流れ」「政策の流れ」「政治の流れ」がある。使用した政治学の「政策の窓モデル」だと、これらの流れが何らかの要因で同期するときに政策が実現するという。確かに学校図書館でもそれは当てはまっている。
 第一期には占領軍の政策で文部省よりもさらに上から学校図書館の検討課題が政策として課され、それによって、学校図書館運動が生まれて(問題の流れ)、最終的には1953年学校図書館法として立法化された(政治の流れ)。ただし、このときの中心的な論点は、戦後間もない復興期に子どもたちのための学習資料や設備を充実させたいということだったので学校内に図書室を設置することにあった。
 第二期、学校図書館関係者にとってこれを教育施設とするためには職員が必要だが、それが学校図書館法で実現されなかったので、司書教諭ないし学校司書の配置要求が問題の流れだった。しかし公立学校教職員の定数問題のため国費による教職員の配分はできなかった。だが、文部省は財政にゆとりが出るに従い図書費を教材費に含めたり高校の事務職員枠を確保するなど一定の配慮をしていた。
 その流れで第三期に子どもの国語力、読書力を向上させるという課題が表面化し、これが学校図書館の読書センター要求という問題の流れをつくりだした。それが政治の流れにつながって、二度の学校図書館法改正となった。だから、可能になったのは読書センターとしての学校図書館でしかない。また、多くの教育行政関係者の理解ではその運営は非正規職員でもやむを得ない(優先順位が低い)ということになる。


次期の三つの流れを考える際の課題

 第三期の読書力や国語力を前提とした流れは、児童書出版社や児童文学者、マスメディアなどの関連業界が超党派の国会議員に働き掛けにつながり、それが大きな力をもった。要するにこれらの業界の利益に結びつき、それは30年以上継続して続いている。だが、それだけだと読書センターの枠組みを変えることはない。
 21世紀も20年代に入った現在の教育の課題はさまざまであるが、そのなかで学校図書館に密接に関わるのが、学習指導要領における探究学習の導入と子どもたちにデジタル端末を配布することから始まった教育DXである。確かに問題の流れとして、グローバライゼーションからくる教育課程の変革や、メディア環境の大きな変化が教育政策の問題の流れを引き起こし、同時に文部科学省が省を挙げてそれらを取り上げている。教育DXについては国全体の政策として取り上げられており、関連業界が積極的に後押ししている。文科省は教育DXに全組織が対応することを表明している。
 学校図書館を学習センター化、情報センター化するためには、それが「問題の流れ」「政策の流れ」「政治の流れ」のアジェンダとして掲げられ、さらには同期させなければならない。とくに問題の流れが単に学校図書館関係者や図書館関係者のみならず教育関係者全般にとっての問題とならなければ、政策や政治の流れには乗れない。言い換えれば、教育学者、教育行政や学校管理者、一般の教員が学校図書館を整備することが教育を向上することにつながるという確信をもてなければ、政策や政治にはつながらない。とくに重要なのは、その確信につなげるために学校図書館が有効であることを示す学術的なエビデンスである。それがあれば文科省の有識者会議や審議会を通じて政策に取り込まれうる。さらには、ビジネスにつながったり政治家の政治的な信条と結びつけば、政治的な課題になりうる。

エビデンスを考えるための理論的枠組み

 とは言え学校図書館はこれまで読書、学習、情報の三センターといった枠組みの議論しかなかったから、そうした内輪の議論は外部に説得力をもたない。しかしながら読書、学習や情報というキーワードは、図書館情報学の枠組みでも議論が可能であることを示しておこう。まず、手がかりになるのは20世紀前半のプラグマティズム哲学者ジョン・デューイの議論である。デューイは20世紀後半以降に再評価されて現在も教育学において強い影響力を保持している。デューイは若くしてシカゴ大学に赴任したときに哲学だけでなく教育学も担当して附属の実験学校の設置運営を指導した。そのときの講演録をもとにしたものが『学校と社会』(1899)である。そのなかで描かれたのが学校と社会の関係のモデル図である。
 それぞれの階の中心に図書室と博物室が置かれているのは偶然ではない。図書室は知の教材を管理する場であり、博物室は実物教材を管理する場である。これらはそれぞれ教科の中心にあって教材を提供すると同時に外部の大学や研究機関、図書館、博物館と連携する場となることが想定されている。
 デューイにとって重要な教育的概念は探究(inquiry)であった。この概念はプラグマティズムの用語としても必ずしも十分に検討されていないが、21世紀日本において探究学習という言葉が多用され定着しようとしている。私は図書館情報学的な観点から探究を次のように4つの知が総合した概念としてとらえている。それは、①教科的知、②読解力、③探索的知、④批判的思考であり、いずれもが学校図書館と密接に関わる。とくに、③探索的知とは(家庭や学校ではない)外部世界へのアプローチのための知(外部知、間接知)であり、学校図書館が媒介する資料や情報である。


 デューイは個人の知は社会状況と密接に関わることを強調した。先ほどの教育のグローバリゼーションがOECDのPISAからきているとしたときに、そこで使われているコンピテンシーとリテラシーの二つの概念はデューイの思想の影響があって重要である。PISA(正確にはその母体となったプロジェクトDeSeCo)では、能力を測るための基準としてコンピテンシーを「特定の状況の中で、心理的・社会的な資源(技能や態度を含む)を引き出し、活用することにより複雑なニーズに応じる能力」とした。要するに、外的な行動とつながる能力のことでそのなかの一部を取り出したのが、PISAで測定する「社会・文化的、技術的ツールを相互作用的に活用する能力」すなわちリテラシーである。そしてこれをさらに、読解力(reading literacy)、数学リテラシー、科学リテラシーに分けて3年に1度15歳の学習者に対してテストされて結果が公表される。つまり、コンピテンシーの部分集合である3つのリテラシーを測定するのがPISAということになる。

 
 このコンピテンシーとリテラシーの関係の整理を基にして、子どもの発達を意識した学校図書館戦略図が上記の図である。乳幼児期のプレリテラシーから始まって、小中学校でリテラシー(読み書き能力)を獲得しながらさらに読解力(リーディングリテラシー)を獲得する。さらにメディア情報リテラシーも併せて獲得することになる。ただしこの図では科学リテラシーと数学リテラシーを省略してあるが、本来読解力と並列すべきものである。これらを支えるのが学校図書館であるが、ここでは読書センター、学習センター、情報センターの機能がバラバラではなくて重層的に働くことが重要である。系統的カリキュラム(教科)においても、探究学習のプログラムにおいても資料・情報を含めた外部知(教材:デューイの用語でsubject matter)が求められる。この図によって学習者のコンピテンシーを支援する学校図書館戦略の概要が見えるようになる。

図書館教育とは何であったか

 1947年、1951年の学習指導要領は「試案」とされた。カリキュラムを実施するのは地方教育委員会で、さまざまなカリキュラム実践が試行された。そのなかではコア・カリキュラムが知られているが図書館教育もその一つである。アメリカの学校図書館運営マニュアルを参考にして文部省内で検討された『学校図書館の手引』(1948)が1949年からいくつかの実験校の実践を導いて、それが公表され、概ね1968年の学習指導要領改訂まで全国の地方教育委員会や学校の教育課程に影響を与えた。そのときに影響が強かったのが読書指導論の研究者阪本一郎が率いる図書館教育研究会の図書館教育と読書指導を組み合わせた次の課程表である。この表をよく見ると、小中学校の9年間にリテラシー(「基本的なスキル」)にとどまらずに読解リテラシー(「理解」)とメディア情報リテラシーの一部(「図書利用の技術」)まで学ぶ内容になっている。

 しかしながら、1953年学校図書館法はこれを担うはずの司書教諭を当分の間置かないことができるとした。また1958年学習指導要領により、系統主義カリキュラムに切り替える動きが急になることにより、カリキュラム運動としての図書館教育は読書指導と図書及び図書館利用法に分離され、後者のみを図書館教育とする見方が中心になり読書指導と分離された図書館教育は徐々に退潮していった。

地域学習リソース拠点の提言

 それから半世紀以上の月日が流れ、学校教育の現場は、戦後間もない時期の混乱とその本質は全く違うが次の時代の課題が山積しているという意味で似た状況がある。グローバリゼーションという外圧を無視できなくなったこと、内部的には、教育困難校の増加、不登校などの学習意欲の減退、それに伴う教員の疲弊と教育格差の拡大などで、教育制度に対する不信はこれまでになく強まっている。2018年に文科省の学校図書館担当がそれまでの初等中等教育局から総合教育政策局地域学習振興課に移ったことは、学校図書館が学校に所属するというだけでなく地域全体の教育資源と結びつくことで本領を発揮できるという文科省自体の宣言と見なすべきである。それは先ほどのデューイの『学校と社会』の学校モデル図の現代的実現でもある。それが次の図で示したものである。

 左側は学校図書館の部分で三センターが重層的にかかわっていくことを示す。右側は地域における大学や研究機関、公立図書館、地域博物館、公民館・生涯学習組織と連携する。とくに公立図書館との関係が重要であろう。ネット、クラウドとの結びつきは言うまでもないし、地域全体がデジタルコンテンツやデジタル教材、データベースの契約を行うことも想定している。こうした機能の中心にあるのが地域学習リソース拠点である。学校図書館を支える組織はとりあえずの現状のものを置いているが、将来的にはリソース拠点を支える組織を一本化する方向に進むものと考えられる。
 最後に、この構想を進めるための第四期の戦略ビジョンを図示しておいた。2020年代前半から20年をかけてリソース拠点の構想を練り、それを可能にするエビデンスを明らかにしていく。これによりリソース拠点を国の整備計画に転換するような政策が準備される。それは最終的には法的な整備となると同時に、これを可能にするための専門職の在り方にまで議論が進むことが期待される。赤の矢印が前のものと違って下降するものとして描くのは、学校図書館関係者自ら問題の流れをつくることから始まるからである。




 


2023-04-09

アメリカのスクールライブラリアンは何をしているのか?ーSLILの学校図書館政策に関する講演①

去る3月26日にSLILの場で学校図書館政策に関する講演の機会をもった。このあとお話しした内容とその場でのやりとりを補う目的で、十分にお答えできなかったことについて三回にわたって追加情報を提供したい。

① アメリカのスクールライブラリアンは何をしているのか?ーSLILの学校図書館政策に関する講演(この項目)

② 図解「地域学習リソース拠点の必要性」:SLILの学校図書館政策に関する講演

③ 学校図書館支援のためのエビデンス——SLILの学校図書館政策に関する講演

ここでは、アメリカの経験主義の授業で学校図書館がどのように使われるのかという質問をいただいたので、Youtubeの動画から関連のものを探してリンクを貼った。けっこう面白いのでご覧いただきたい。

英語の動画も、英語の字幕をつけるだけでなく日本語に翻訳した字幕(変なところもあるがそれはご愛敬ということで)を付けることができるようになっていた。 これはこれで発見であり技術の進歩に驚かされた次第。このブログの最後にその方法についてのリンクを貼ってある。


Q.アメリカで現在も経験主義的な授業を行い、学校図書館を有機的に活用している事例があったら教えて欲しい。

A. 基本的にアメリカの学校の授業は日本よりはずっと経験主義的に展開されています。それは教師が児童生徒に問いかけを行い、疑問や課題を引き出し、それをベースにディスカッションや作業、調べ物などを行わせるからです。たとえば次の歴史の授業の動画を見てください。独立宣言を読ませながら、どういうものかについて書かせ、グループで議論をさせます。教師は常に質問を発しますが、理解させようとするのはこれがどういう性格の文書なのかです。それは暗記できるような事実として提示されているのではなくて、常に考えさせることを要求します。ただし、まったく自由に考えさせるのではなくて大枠での理解の水準の確保を求めます。それについては板書したり言葉で強調したりします。こういう授業における評価は記述式の試験で行われることになります。

①Teaching American History: Declaration of Independence Classroom 1

https://www.youtube.com/watch?v=p07cEjN8W0U

こういうところで学校図書館がどのように利用されるのかは学校の方針や個々の教師の方針によります。社会科の授業の前後に図書館での資料調査などを入れることはよくあると思いますが、この教師が学校図書館を使った授業をしているのかどうかは分かりません。アメリカ図書館協会(ALA)の傘下にあるアメリカ・スクールライブラリアン協会(AASL)は授業展開全体で学校図書館が重要であることを常に訴え、それは多くの学校、教員に受け入れられていると思います。それを示す動画を二つ見てください。②はAASLのプロモーションビデオの一つであり、③はスクールライブラリアンの一人が自分がしていることを説明した動画です。これらを見れば、スクールライブラリアン(この資格は日本で言えば学校司書の資格に近いですが、州によっては教職免許の取得を前提にしています)が経験主義の学習に貢献していることが分かります。

②The Power of School Librarians


https://www.youtube.com/watch?v=6eilZJp3_h8

③What do librarians actually do?

https://www.youtube.com/watch?v=DHaKyjZBWtA&list=RDLV6eilZJp3_h8&index=2

AASLは2018年に新しい学校図書館基準を発表しました。③の動画にちらっと映ってた写真は2007年の「21世紀の学習者のための基準」で、2018年基準はこれらを取り込んだ総合的なものとして公表されています(https://current.ndl.go.jp/e718)。

American Association of School Librarians. National School Library Standards for Learners, School Librarians and School Libraries. ALA Editions, an imprint of the American Library Association, 2018, xiv, 314p.

として公表されています。それについて次の解説があります。

中村百合子「E2006 – 米国学校図書館員協会による新学校図書館基準<文献紹介>」カレントアウェアネス-E No.343 2018.03.08 https://current.ndl.go.jp/e2006

また、中村さんを中心にこの基準の学習者のフレームワークを取り出したパンフレット「学習者基準フレームワーク」の翻訳プロジェクトがあり、翻訳版が公表されています。

https://www.rikkyo.ac.jp/campuslife/support/certification/librarian/project2020.html(翻訳プロジェクト)

https://standards.aasl.org/wp-content/uploads/2017/11/AASL-Standards-Framework-for-Learners-pamphlet.pdf(英語版)

https://www.rikkyo.ac.jp/campuslife/support/certification/librarian/mknpps000001hc7o-att/mknpps000001hcak.pdf(日本語翻訳)


次は教員とスクールライブラリアンが連携して行う授業の動画の例です。
④Teacher/Librarian Collaboration

https://www.youtube.com/watch?v=eXp8X4o0gUY


なお、英語のYoutube映像に英語ないし日本語の字幕をつける方法については、次のサイトを参照してください。https://www.notta.ai/blog/youtube-translate


探究を世界知につなげる:教育学と図書館情報学のあいだ

表題の論文が5月中旬に出版されることになっている。それに参加した感想をここに残しておこう。それは今までにない学術コミュニケーションの経験であったからである。 大学を退職したあとのここ数年間で,かつてならできないような発想で新しいものをやってみようと思った。といってもまったく新しい...