2021-09-03

『国際バカロレア教育と学校図書館—探究学習を支援する』の刊行(10月30日発売)

 
カバーイラスト|タカハシタケシ/TAKESHI TAKAHASHI
カバーデザイン|松本泉/IZUMI MATSUMOTO

アンソニー・ティルク著『国際バカロレア教育と学校図書館——探究学習を支援する』(根本彰監訳、中田彩・松田ユリ子訳)学文社, 2021.

原著:Anthony Tilke, The International Baccalaureate Diploma Program and School Library: Inquiry-Based Education, Libraries Unlimited, 2011.

(Amazon https://www.amazon.co.jp/dp/4762031062

が刊行されました。(店頭に並んだのは10月30日からです)

本書の著者アンソニー・ティルク氏は現在はオランダのハーグ・アメリカンスクールにいますが、かつて横浜インターナショナルスクールに8年いたことがある日本通の学校図書館員です。この著書は国際バカロレアと学校図書館の関係について概説した唯一の図書であり、国際バカロレアのカリキュラム展開において学校図書館および学校図書館員の存在が不可欠であることを理論的、実務的に記述しています。

11月23日開催の公開シンポジウム「国際バカレアと学校図書館」の詳細については→こちら

シンポジウム参加者には1割引(送料・消費税込2200円)での特別販売を行います。(10月13日追加)

次は本書掲載の「監訳者による序文」と目次です。


監訳者による序文

国際バカロレア(IB)は,国際的に実施されている初等中等教育カリキュラムとそれに基づく大学入学資格である。どの国で教育課程を終えても他の国の大学に入学できるように,国際的高大接続のための共通カリキュラムを規定し,それを元にした国際バカロレア試験を実施している。日本でも文部科学省が大臣官房の国際教育課に国際バカロレア担当を置いて積極的に推進しようとしている。2021 年 3 月時点で国内の IB プログラム認定校 数は 167 校であり,うち学校教育法第 1 条に規定されている学校(一条校)は 51 校であるが,同省は 200 校への設置を目標にしていると言われる。  

これが注目されるのは,単に国際教育を推進し,国際社会で活躍できる日本人を育成するというところにあるだけではない。2020 年代に実施される学習指導要領は「主体的・ 対話的で深い学び」を実現することを目標に掲げていて,かつて系統学習と経験学習のせめぎ合いと言われていた教育課程は,21 世紀も 20 年代になると学習者が自ら知を構築する構成主義に舵を切りつつある。そして,国際バカロレアは教育課程にいち早く探究学習(inquiry-based learning)を取り入れているから,その導入は日本の学校にとって探究学習のための手本となり,今後の学校教育の在り方に多くの示唆を与えることが予想される。  

カリキュラムのなかで「知の理論(TOK)」「課題論文(EE)」のような探究学習を中心 とするものはもとより,各教科においても探究学習は必ず実施される。そのため,国際バカロレアでは学校図書館の設置が必須で,学習者が自ら学習を進める際の学習資源を提供するセンターとして位置づけられている。学校図書館の担当者は、教員と連携しながら,教員とは異なった立場から学習者の探究を支援していくことになる。 

本書の著者アンソニー・ティルク氏は,横浜インターナショナルスクールの図書館で働いていた経験もあるアジア通の学校図書館員であり,と同時に,国際バカロレアにおける学校図書館について世界で最もアクティブなプロモーターの 1 人として活躍している人物である。本書は,彼が各国での国際バカロレアの学校図書館に勤務した経験と綿密なインタビュー調査によって執筆された博士論文をベースに,国際バカロレアと学校図書館の関係を総合的に考察した著作である。

 IBDP の学習は,学習資源を提供する専門の図書館/員(library/ian:これはティルク氏 の表現)が備わっていないと成立しないというのが彼の考えである。しかしながら後半の 章には,学校図書館が静かな勉強の場として位置づけられているとか,教員が自分の経験 からしか学校図書館の利用の仕方を理解していない,教育学と学校図書館研究が没交渉で あるといった,苛立ちともとれる指摘もある。それは,新しいカリキュラムを実践しようとしている学校現場において,学校運営者,教員,生徒を相手に仕事をする学校図書館員としての著者のクリアな現状認識であることを示している。  

著者は本書執筆後,学校図書館と国際バカロレアをつなぐ役割を買って出て,学校図書 館員や IB 教育の国際的な会合や研修の場で積極的な活動や発言を行うようになった。その甲斐もあって,2010 年代半ば以降に国際バカロレアの公式文書に学校図書館員のことが登場してくるようになっている。本書は,学校図書館が学校のなかで教育課程を支援するという考え方が必ずしも学校内で共有されていないことを前提として,ケーススタディをもとに実践の方法を提示したものであり,学校図書館が探究学習のための重要な場として位置づけられるためのヒントに満ちている。  

本書は,すでに確立されている実践のノウハウを記述したものではなく,研究と実践を組み合わせて新しい課題に取り組んだチャレンジングな試みである。日本においても国際バカレロレア関係者や学校図書館関係者はもちろんのこと,教育課程や教育方法,学校マネジメントの担当者,実務家,研究者にとってもきわめて重要な情報を提供してくれるはずだ。 日本の読者にとって理解しにくい概念や原著出版後の状況については訳者による注をつけ, 巻末に解説を入れている。ぜひ,実務あるいは研究の参考にしていただきたい。   

                                                                                                                            根本 彰 

目次

日本語版のための序文 

監訳者による序文 

IB 用語集 

第 1 章 はじめに

第 2 章 国際バカロレア・ディプロマプログラム(IBDP)と IB 

第 3 章 IBDP 科目のマトリックスとコアの特徴

第 4 章 課題論文(EE)

第 5 章 IB の学習者像と学問的誠実性

第 6 章 IBDP の生徒は学校図書館をどのように使うのか

第 7 章 IBDP における教員,管理職および学校図書館員の役割 

第 8 章 利用者に焦点を当てた学校図書館

第 9 章 IBDP 図書館と図書館員の役割

付 録

  1 :学校図書館向けの TOK 資料

  2 :ヘルプシートと図書館ウェブサイトのための図書館の情報の例

  3 :グループ 1 を支援するために図書館がつくったブックリストの一例

  4 :IBDP に関する情報リテラシー関連の調査研究

  5 :エッセイ,EE,要約の書き方に関する図書

  6 :学校図書館の IBDP EE 寄贈に関する方針例

引用・参照文献一覧  

日本語版解説 

索 引 


訂正:133ページの謝辞欄のお世話になった方のお名前に誤りがありました。
    誤:向井敦子→正:向井惇子です。
向井さんにはたいへん失礼しました。ここにお詫びし訂正させていただきます。



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