2019-05-31

「戦後教育学の出発と学校図書館の関係」

2018年5月12日(土)に早稲田大学にて開催された日本図書館情報学会春季研究集会での発表原稿です。

根本 彰「戦後教育学の出発と学校図書館の関係」
『日本図書館情報学会春季研究集会発表論文集』早稲田大学,  2018年5月12日, p.103-106.

抄録 学校図書館の中心機能である学習を支える機能について、戦後初期の新教育の考え方 にどのように位置づけられたのかを、当時の学校図書館構想における教育学的考え方 の検討と、新しい教育学の構想のなかで学校図書館についての言及がどの程度あった のかの検討を通じて明らかにした。政策的なものが作用するうちは、学校図書館と教育学は関わり合おうとしたが、作用が弱まると疎遠になったことが分かる。


2019-05-14

『図書館の世界』(フランス語版)への寄稿(改訂)

フランスのEditions du Cercle de la Librairieから、Julien Roche編のUn monde de  bibliothèquesという本が出ました。これは世界の建物が美しい図書館を38館(ヨーロッパ22館,アメリカ8館,それ以外8館)を選んで写真と解説をつけたものです。このなかで、日本の国立国会図書館と金沢市立図書館について執筆しました。(日本語で書いたものが仏訳されています)

依頼(英語)があったときにKanazawa  Libraryと書いてあったので、金沢文庫のことかと思い問い合わせたら、金沢市図書館とのこと。どうも、海みらい図書館がフランスでも知られているらしくそれを紹介したいということのようでした。本はまだ日本ではあまり紹介されていませんが、紀伊国屋書店のサイトには掲載されていました

次は書店のページにあった本の表紙とそこにリンクされた広告コピーの日本語訳、そして目次です。コピーはGoogle Translationを使って下訳したものに手を入れました。45年前に学んだフランス語(平川祐弘に最初の文法を学び、2年目に蓮實重彦とプルーストを読んだが、すっかり錆びついていた)を思い出しながら、自由に意訳してあります。

なお、出版社のサイトには、編者 Julien ROCHEの序文と著者一覧も掲載されています。


Un monde de bibliothèques


<図書館は、ときに壮麗で感動的なイメージを喚起する場所であり、文化がハイパーコネクトされた、いわば魔術的なシンボル世界に位置づけられているために、そのことを扱った美麗本はたくさん出ています。しかし、それはこの本の意図するところではありません。この本は、断固として別のやり方をとります。過去、あるいは最近建てられた建物がもつ魅力的な力を余すことなく伝えるために、本書は、図書館が置かれた環境、その活動領域、そのコミュニティとそのネットワークとともにあることを含めて、多数の著名な図書館の全体像を提示します。それにより、図書館は単なる函であることを超えて、視覚に訴え、智に働き、影響力を行使する存在であることが理解できます。

未公表の写真を配置した40のオリジナルの解説に接することで、この本は大陸別に分けて読者を気ままな旅に誘います。大規模なものも小規模なものも、有名どころも知られていないものも、稀少なるものもまったく "普通"のものも、そして、豪華なものも質素なものも、公立、大学、国立、または専門の、およそ、世界中のすべてのカテゴリーの図書館がここに提示されています。かなり最近のものもあれば、何世紀も前のもの、あるいは何千年も前のものもあります。それらはすべておのおののユーザーに提供するサービスの質という点で典型となっているものです。そして、すべてが図書館の歴史、あるいは歴史そのものを語っているのです。>

“Sommaire

Introduction
Julien ROCHE


EUROPE
La bibliothèque de l’État de Basse-Saxe et de l’université de Göttingen (SUB), un laboratoire du savoir
Elmar MITTLER
Un joyau dans l’Université libre de Berlin, la Bibliothèque philologique
Petra HAUKE
La « Humboldt » de Berlin, de l’idéal humboldtien au Centre Jacob-et-Wilhelm-Grimm
Petra HAUKE
La bibliothèque de l’université Cottbus-Senftenberg, tiers-lieu, « non-lieu » et lieu à succès
Andreas DEGKWITZ
Le Library and Learning Centre de l’université d’économie et des affaires de Vienne, un joyau au cœur du campus
Andreas AMENDT et Marie-Pierre PAUSCH-ANTOINE
La Bibliothèque nationale du Bélarus, une histoire dans l’Histoire
Roman Stepanovič MOTUL’SKIJ
La Bibliothèque nationale et universitaire de Zagreb, marqueur de l’histoire de l’Europe centrale
Marija DALBELLO
La Bibliothèque royale du Danemark, un diamant danois
Steen BILLE LARSEN
La bibliothèque de l’université de Salamanque, une institution à travers l’Histoire
María ELVIRA Y SILLERAS
La bibliothèque de la Citadelle de l’université Pompeu Fabra de Barcelone, un joyau dans la ville
Lluís AGUSTÍ
La Bibliothèque universitaire centrale d’Helsinki, un outil remarquable au service de l’attractivité de l’université”
“Kaisa SINIKARA
Les bibliothèques de l’Université catholique du Sacré-Cœur, entre tradition et modernité
Mario GATTI et Ellis SADA
La nouvelle Bibliothèque nationale de Lettonie, montagne de verre et château de lumière
Andris VILKS
La bibliothèque de Vennesla, une architecture inspirée pour un projet ancré dans son territoire
Anne Kjersti BENTSEN
La bibliothèque publique d’Amsterdam, de l’inclusion et du vivre ensemble au service de la diversité
Zsófia BENE, Olindo CASO et Marian KOREN
La bibliothèque publique de Spijkenisse, une bibliothèque durable et ouverte sur la Cité
Zsófia BENE, Olindo CASO et Marian KOREN
La bibliothèque municipale d’Heerhugowaard, un poumon de vie culturelle, sociale et communautaire tourné vers la jeunesse
Zsófia BENE, Olindo CASO et Marian KOREN
Le centre culturel Rozet aux Pays-Bas, un exemple réussi de bibliothèque intégrée
Zsófia BENE, Olindo CASO et Marian KOREN
Le Saltire Centre de l’université calédonienne de Glasgow, un bâtiment et un concept pionniers
Les WATSON
La nouvelle Nouvelle Bibliothèque Bodleian, un lieu refondé au service de la recherche
Wolfram HORSTMANN
La British Library, une bibliothèque à vocation universelle
John TUCK
La Bibliothèque nationale de Russie, une institution culturelle clé de la Fédération
Andrei ANTONENKO
La bibliothèque abbatiale de Saint-Gall, une institution[...]”“ un patrimoine pour l’humanité
Ambrogio M. PIAZZONI
 

AMÉRIQUES
La bibliothèque George-Peabody, la vision d’un philanthrope moderne
Yvon-André LACROIX
La bibliothèque James B. Hunt Jr. de l’université d’État de Caroline du Nord, un équipement exceptionnel
Carolyn ARGENTATI et Chris TONELLI
La New York Public Library, une bibliothèque ouverte sur le monde
Marija DALBELLO
La Thomas Fisher Rare Book Library de l’université de Toronto, une collection exceptionnelle de livres rares et d’archives
Marcel LAJEUNESSE
La Grande Bibliothèque du Québec, une très belle réussite
Yvon-André LACROIX
La Taylor Family Digital Library de l’université de Calgary, un centre culturel et intellectuel
Guylaine BEAUDRY
La bibliothèque Palafoxiana, porte ouverte sur la culture de la Nouvelle-Espagne
Fabiola Patricia MONROY VALVERDE
La Vasconcelos, une bibliothèque vivante
Daniel GOLDIN
 

AFRIQUE, ASIE, OCÉANIE
La bibliothèque de l’université de technologie du Queensland, expérience étudiante, services aux chercheurs et innovation
Judy STOKKER et Sue HUTLEY
La Bibliothèque nationale de Chine, un outil emblématique du rayonnement chinois
Tommy YEUNG
La Bibliotheca Alexandrina, renaissance de la bibliothèque d’Alexandrie
Gérald GRUNBERG
La Bibliothèque nationale de la Diète, un rayonnement

Akira NEMOTO
Les bibliothèques municipales de Kanazawa, un réseau remarquable
Akira NEMOTO
La Bibliothèque nationale du Royaume du Maroc, un rayonnement international
Driss KHROUZ

La bibliothèque de l’université Saint-Thomas de Manille, mémoire de l’histoire des Philippines
Anabel de la PAZ
Une nouvelle Bibliothèque nationale pour le Qatar
Claudia LUX”

2019-05-13

『教育改革のための学校図書館』(東大出版会)の刊行予告

6月25日に、表記の本を刊行予定です。

この本は、私が携わってきた領域のなかで、学校図書館にかかわるものを集大成したものです。 とくに今の教育改革と戦後の学校図書館の制度と位置づけがねじれた関係にあったことを整理し、このねじれを解くため提言をしています。

たとえば、1953年の学校図書館法ができるときに、実は文部省でも当時の経験主義教育を支援するために学校図書館制度をつくる動きがあり、専任司書教諭の配置までを視野に入れていました。東京学芸大学の附属学校ではそのために「図書館教育」のモデルカリキュラムの実験をしていました。これがなぜ「教諭をもって充てる」かたちのでの司書教諭が制度化されてしまったのか。当時の教育学者はこの動きに対してどのような反応を示していたのか。第Ⅰ部ではこの問題を取り上げます。このなかでは第3章は書き下ろしです。学校教育学のなかでもとくに教育課程論や教育方法学と学校図書館の関係がねじれたままになったのがなぜだったのかについて、考察しています。

第II部はその後の教育改革のなかで学校図書館問題がどのように位置づけられたのかについて、さまざまな角度から論じています。第6章では、ここ20年ほどで行った実証的な調査についてのまとめを掲載しました。

第III部では、外国の事例について述べました。アメリカについては書かれたものがけっこうありますが、ここではとくにフランスを取り挙げます。実はアメリカもフランスも20世紀の百年をかけて教育改革をつづけていますが、そのなかでアメリカでは20世紀なかばに、フランスでは20世紀末に、学校図書館の制度化と専門的な図書館員の配置の制度化を進めました。私は教育改革は100年単位で考えるべき問題と思いますから、この二つの国が若干の時差をもちながらその選択をした理由がなんなのか、日本ではその条件が整っているのかという問題意識から取り組みました。

第IV部は、まとめですが、第9章ではLIPER(図書館情報学専門職養成のリニューアル)学校図書館班で取り組んだ政策的課題をまとめています。そして最終章もまた書き下ろしでここまでの議論を整理し、若干の政策提言も含めて論じました。

全体でA5判で340ページにもなりました。それだけ複雑で困難な問題が横たわっていたからです。ここで述べた図書館と教育の関係の議論は、『情報リテラシーのための図書館』(みすず書房, 2017)に続くものです。価格もずいぶん高くなりましたがm(_ _)m、この領域では今までになかった総合的な考察をした書物であると自負しています。

<目次>
第I部 戦後の出発点の確認
 第1章 戦後学校図書館制度成立期研究の現状
 第2章 占領期における教育改革と学校図書館職員問題
 第3章 戦後教育学の出発と学校図書館の関係
第II部 教育改革と学校図書館
 第4章 学校図書館における「人」の問題
 第5章 教育改革と学校図書館の関係を考える
 第6章 教育改革と学校図書館制度確立のための調査報告
第III部 外国の学校図書館と専門職員制度
 第7章 フランス教育における学校図書館CDI
 第8章 米国ハワイ州の図書館サービスと専門職養成システム
第IV部 日本の政策的課題
 第9章 学校内情報メディア専門職の可能性
 第10章 日本の教育改革の課題と学校図書館の可能性
あとがき

なお、今後、3回にわたって日本図書館情報学会で発表した学校図書館と教育改革の課題についての論文をブログにアップする予定です。

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7月9日追記
・7月1日に販売が始まりました。
・本書の序、1章1節、10章4節を読めるように公開しました。
https://oda-senin.blogspot.com/2019/07/blog-post.html

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7月27日追記
 公開シンポジウム「教育改革のための学校図書館」の開催予告を行いました。
https://oda-senin.blogspot.com/2019/07/blog-post_27.html

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2020年12月24日追記
 この本をもとにした研究業績により2020年2月に慶應義塾大学より博士(図書館・情報学)が授与されました。その経緯や論文要旨、要約、審査要旨および審査に対する応答をブログにアップしました。

市川沙央『ハンチバック』と読書のバリアフリー

ふだん小説はほとんど読まない。そんな私が 最近,市川沙央 『ハンチバック』 という本を読んだ。芥川賞受賞作を受賞後1年以内に購入して読むことなど初めての体験だ。それというのも,この本が身体障害者の読書バリアフリーを一つのテーマにしているという声がさまざまなところから聞こえてきたか...