2022-01-17

土浦市立図書館の簡易蔵書調査

土浦市立図書館を利用していることについて前からここで発信している。できたばかりの中央図書館に行ってみたときの報告はここを見てほしい。また、比較的近いところに新治分館があって利用しやすい。この図書館の蔵書管理システムは、中央図書館や他の分館にある資料を取り寄せることができるのだが、どこにでも返すことができるだけでなく、返した図書は一部を除くと返した図書館に置かれる。つまり、蔵書は全館で動的に管理するという考え方っをとっている。これを繰り返すと分館の蔵書が自分好みのものになっていくのはいいのだが、それによって蔵書に偏りが出てくる可能性がある。このことの功罪についてはまた語ることにしたい。

ここでは今から1年半前に行った土浦市立図書館の簡単な蔵書調査の結果を示しておきたい。これを実施したのはここの蔵書がずいぶん堅いという印象をもったからだ。これは私のような興味関心のものからすればありがたいことでもあるのだが、これで本当にいいのだろうかとも感じたので実態を把握したいと考えた。ここに示す表は、2020年7月下旬のある日の時点で、土浦市立図書館の2020年6月のベストリーダー10点と人文会ニュースに掲載された新聞に書評された本(2019年6月下旬〜7月上旬)13点の所蔵数(分館を含む)と貸出数を調べ、さらに小山市立図書館と日野市立図書館の蔵書数と比較したものである。

ベストリーダー*という表現は公共図書館関係者が好んで用いていたもので、貸出数の多いタイトルのことである。それに対して新聞書評された本は教養書、専門書が取り上げられやすいので、比較するために取り上げた。土浦市に対して、小山市(栃木県)と日野市(東京都)の図書館を引き合いに出したのは、人口規模が類似していることと、東京都心からの距離が近い大都市近郊という意味合いで近似性があるからだ。だが、小山市は似ているだろうが日野市は明らかに東京のベッドタウンとして発展したところで都市としての性格を異にするし、何よりも「市民の図書館」のモデルとされるところであるので、そのモデルとの関係をみる意味を含めて選択した。

まずベストリーダーだが、ここに上がっている著名作家の文芸書について3館とも手厚く複本をもって提供している。土浦が10タイトルに対して55点、小山が67点、日野が167点の蔵書であった。日野が土浦の3倍の蔵書(複本)をもつことが目を引く。このあたりは図書費の相違、複本提供の方針の違い、住民構成の違い、分館・地域館の設置密度、図書館サービスの歴史的な定着度などの要因を考えなければならない。土浦と小山を比較すると小山の方が複本が多い、図書費が少ないのに複本が多いからこうした貸出が多い本を土浦よりは積極的に提供しているのだろう。また、新聞書評になった図書については、土浦と日野はほぼすべての本を所蔵していたが、小山は5タイトルのみだった。こうした本の貸出であるが、土浦ではすべて貸出なしであり、小山と日野で1冊のみであった(赤字が貸し出されている本)。

以上の結果をどのように解釈したらよいだろうか。土浦と小山を比較すると土浦の方が図書費を多くもちベストリーダー以外の教養書・専門書にも配慮していることがうかがえる。日野はさらに図書費が多くどちらも手厚く提供しているということができるだろう。土浦が専門書にも配慮していることはこれで明らかになったが、ここでは全国紙の書評に取り上げられた図書という縛りをかけているので専門書の一部にすぎない。専門書は価格が高く読者は限られるのでまんべんなくということは難しいが、書評という篩いは有効ではあるだろう。あとは、図書費の金額次第ということができる。また、図書館の書架および書庫のキャパシティの問題もあるかもしれない。土浦の中央図書館はまだできて間もないので余裕があるということも言えるだろう。こうしてみると、ベストリーダーも教養・専門書もどちらも入れている日野市立図書館がすぐれた実践を継続していることを確認できたということができる。

利用が多くない資料を入れていることについては別に議論しなければならないだろうが、ひとまず、こうしたものはいずれ利用されることを待っているアーカイブ的な蔵書と考えるべきである。アーカイブに対する考え方は拙著を読んでいただきたい。また、この簡単な調査からも、土浦市立図書館の蔵書はバランスがとれたものといってよいのではないだろうか。


*ベストリーダーという言葉に関する補足

ベストリーダーとは、best sellerから連想してつくった用語だろうが、和製でそれも図書館界でしか通用しない言い回しだし、英語としては誤用だろう。best readerは最良の読み手あるいは最良の読み本(教科書)という意味になり、たくさん読まれたという意味にはならない。sellもreadも対象はbooksであり、well sell/ well readからの派生と考えられるが、「よく売る」とはたくさん売ることであるのに対し、「よく読む」のはよい本を適切に読むことである。たとえばHe's well‐read in history.という用例があるが、これは、歴史の本をよく読んでいるという意味で、歴史に精通していることになる。あきらかに本を売るのは商人であり、本を読むのは読み手である。売る行為と読む行為は主体と目的が違うのである。近代ヨーロッパで本が印刷術によって普及した時期は、資本主義の発展期であると同時に知識人による学術、科学、ジャーナリズムなどの発展期であったから、出版関連のことに関しては経済行為であるとともに知的行為であるというような区別があった。これは現在でもそうである。日本の図書館関係者がベストリーダーという言葉をつくったのは、公共図書館の発展期が新自由主義が昂進し図書館が経済行為に近いところに位置付けられた時期だということをいみじくも示している。




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