大学をやめてから半年が経過して、ブログの更新も停止していましたが、そろそろ再開しようと考えています。本日は、日本図書館情報学会研究大会があり、そこで「国際バカロレアにおける図書館の位置づけ」という報告をしたので、これについて、この場で公開したいと思います。
抄録
日本でも,50校ほどで導入されている国際バカロレアディプロマプログラム(IBDP)の歴史と現状,学校図書館がどのように位置づけられているのかについて,IB本部の公式文書および外国での研究成果を基に整理した。1970年代から始まったプログラムは探究学習を中心とし,学校図書館は必置であるが,専門職員配置については曖昧であった。2000年代に進められたA. Tilkeの研究及び実践は専門職員配置について一定の成果をもたらしつつある。
いくつか質問があったのでお答えしました。補足しながらまとめておきます。
Q アメリカの一般的学校のカリキュラムと学校図書館との関係と、IBのカリキュラムと学校図書館との関係は同じようなものと考えてよいのか。
A アメリカの学校といっても公立か私立か、州の違いなど個別のケースによってかなり違うが、20世紀後半以降、カリキュラムは探究型に転換しつつある。IBはアメリカのみならず欧米の学校カリキュラムで採用されている構成主義をもとにした探究的な学習法の動向を先取りしている。探究とは学習資源(これは、人、教材、学校図書館資料、データベース、ネット上の情報資源を問わず)を素材として使って自らの知を構築することである。この学習資源全体の管理と仲介機能を果たすのがlibrary/ianの役割とすれば、探究学習をするのにlibrary/ianは必須であるという理解は共通している。IBはそのような動向を先取りして制度化しつつあると言える。
Q 国際バカロレアのカリキュラムの推進に図書館が関わるという考え方はどこから来ているのか。それが日本で定着する必然性はあるのか。
A もちろんカリキュラムの推進は教員の役割であり、司書や司書教諭はそれを支援するというのは他の学校図書館とも同様である。発表でも述べたように、IBの本部は学校図書館員を専門職とみなして要求しているので、日本も含めて総じて図書館員の専門性、独立性は認められており、そのために教員と対等の立場で支援することがしやすいのだろう。定着するかどうかは今後の展開次第であり、そのためにこうした研究を行っている。
Q 国際バカロレアが日本の教育改革にどのような影響をもたらすと考えるか。そのときに学校図書館への影響は。
A IBのカリキュラムは2020年代の学習指導要領の方向性とぴったり合うものであり、その意味ではIBが国内の一般的な学校の実践に何らかの波及効果をもたらす可能性はある。その場合に、学校図書館にもよい影響を与えるかもしれない。とは言え、文科省が率先して導入をはかろうとしているが、これはカリキュラム改革というよりも国際教育という文脈で考えたほうが理解しやすい。なぜなら、IBを担当しているのは大臣官房の国際教育のセクションであり、カリキュラムは初等中等教育局の管轄なので別だからだ。だから、公立学校でIBを導入したところも県の教育委員会肝いりの特別の位置付けにある実験校にな(ってい)る可能性は高く、IB校が教育改革に対してプラスの影響を与える存在なのかはまだよくわかっていない。けれども、数十年単位での長期的展望を言えば、今後の学習方法のモデルを提示することは間違いないと思われる。
ブログの更新を楽しみにしています。御親切に本文ファイルの添付ありがとうございます。私もIBに関心がありましたので、とても参考になりました。読書のアニマシオンが推理や協同をコンセプトにしていますのでIBと親和的です。国が国際教育の文脈で考えているとのことですが、探究型を高校で進められていますので、時間がかかっても教育改革は進むと思います。読書のアニマシオンを教員、教育行政のかたが関心を寄せていただければ、内容中心の教育を現場の授業から変えていけるように思います。私は、当面、そちらの方面を考えていきます。
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