2023-04-09

アメリカのスクールライブラリアンは何をしているのか?ーSLILの学校図書館政策に関する講演①

去る3月26日にSLILの場で学校図書館政策に関する講演の機会をもった。このあとお話しした内容とその場でのやりとりを補う目的で、十分にお答えできなかったことについて三回にわたって追加情報を提供したい。

① アメリカのスクールライブラリアンは何をしているのか?ーSLILの学校図書館政策に関する講演(この項目)

② 図解「地域学習リソース拠点の必要性」:SLILの学校図書館政策に関する講演

③ 学校図書館支援のためのエビデンス——SLILの学校図書館政策に関する講演

ここでは、アメリカの経験主義の授業で学校図書館がどのように使われるのかという質問をいただいたので、Youtubeの動画から関連のものを探してリンクを貼った。けっこう面白いのでご覧いただきたい。

英語の動画も、英語の字幕をつけるだけでなく日本語に翻訳した字幕(変なところもあるがそれはご愛敬ということで)を付けることができるようになっていた。 これはこれで発見であり技術の進歩に驚かされた次第。このブログの最後にその方法についてのリンクを貼ってある。


Q.アメリカで現在も経験主義的な授業を行い、学校図書館を有機的に活用している事例があったら教えて欲しい。

A. 基本的にアメリカの学校の授業は日本よりはずっと経験主義的に展開されています。それは教師が児童生徒に問いかけを行い、疑問や課題を引き出し、それをベースにディスカッションや作業、調べ物などを行わせるからです。たとえば次の歴史の授業の動画を見てください。独立宣言を読ませながら、どういうものかについて書かせ、グループで議論をさせます。教師は常に質問を発しますが、理解させようとするのはこれがどういう性格の文書なのかです。それは暗記できるような事実として提示されているのではなくて、常に考えさせることを要求します。ただし、まったく自由に考えさせるのではなくて大枠での理解の水準の確保を求めます。それについては板書したり言葉で強調したりします。こういう授業における評価は記述式の試験で行われることになります。

①Teaching American History: Declaration of Independence Classroom 1

https://www.youtube.com/watch?v=p07cEjN8W0U

こういうところで学校図書館がどのように利用されるのかは学校の方針や個々の教師の方針によります。社会科の授業の前後に図書館での資料調査などを入れることはよくあると思いますが、この教師が学校図書館を使った授業をしているのかどうかは分かりません。アメリカ図書館協会(ALA)の傘下にあるアメリカ・スクールライブラリアン協会(AASL)は授業展開全体で学校図書館が重要であることを常に訴え、それは多くの学校、教員に受け入れられていると思います。それを示す動画を二つ見てください。②はAASLのプロモーションビデオの一つであり、③はスクールライブラリアンの一人が自分がしていることを説明した動画です。これらを見れば、スクールライブラリアン(この資格は日本で言えば学校司書の資格に近いですが、州によっては教職免許の取得を前提にしています)が経験主義の学習に貢献していることが分かります。

②The Power of School Librarians


https://www.youtube.com/watch?v=6eilZJp3_h8

③What do librarians actually do?

https://www.youtube.com/watch?v=DHaKyjZBWtA&list=RDLV6eilZJp3_h8&index=2

AASLは2018年に新しい学校図書館基準を発表しました。③の動画にちらっと映ってた写真は2007年の「21世紀の学習者のための基準」で、2018年基準はこれらを取り込んだ総合的なものとして公表されています(https://current.ndl.go.jp/e718)。

American Association of School Librarians. National School Library Standards for Learners, School Librarians and School Libraries. ALA Editions, an imprint of the American Library Association, 2018, xiv, 314p.

として公表されています。それについて次の解説があります。

中村百合子「E2006 – 米国学校図書館員協会による新学校図書館基準<文献紹介>」カレントアウェアネス-E No.343 2018.03.08 https://current.ndl.go.jp/e2006

また、中村さんを中心にこの基準の学習者のフレームワークを取り出したパンフレット「学習者基準フレームワーク」の翻訳プロジェクトがあり、翻訳版が公表されています。

https://www.rikkyo.ac.jp/campuslife/support/certification/librarian/project2020.html(翻訳プロジェクト)

https://standards.aasl.org/wp-content/uploads/2017/11/AASL-Standards-Framework-for-Learners-pamphlet.pdf(英語版)

https://www.rikkyo.ac.jp/campuslife/support/certification/librarian/mknpps000001hc7o-att/mknpps000001hcak.pdf(日本語翻訳)


次は教員とスクールライブラリアンが連携して行う授業の動画の例です。
④Teacher/Librarian Collaboration

https://www.youtube.com/watch?v=eXp8X4o0gUY


なお、英語のYoutube映像に英語ないし日本語の字幕をつける方法については、次のサイトを参照してください。https://www.notta.ai/blog/youtube-translate


0 件のコメント:

コメントを投稿

探究を世界知につなげる:教育学と図書館情報学のあいだ

表題の論文が5月中旬に出版されることになっている。それに参加した感想をここに残しておこう。それは今までにない学術コミュニケーションの経験であったからである。 大学を退職したあとのここ数年間で,かつてならできないような発想で新しいものをやってみようと思った。といってもまったく新しい...