2017-10-22

小田の能舞台


これまで小田のことを書く機会があまりなかったが、今回はNPO法人華の幹(はなのき)であった能舞台のイベントについて書くことにしたい。ここは、主催者である飯塚洋子さんが、人が住まなくなった古民家をボランティアの人たちの力を結集して再生し、地域の活性化の拠点として活動している場所だ。これまでも何度かお邪魔したことがあるのだが、9月30日の晩、年に1度のイベントとしてここ4年間行われている本物の能公演を見に行った。

能の鑑賞は中学生のとき以来だと思う。広い庭にござを敷いて、そこに座って能舞台を見る。幸い天気はよく暖かい夕べなのだが、徐々に冷えてくるので途中の休憩のときに上着を取りに帰ったくらいだ。ボランティアによる手作りだという能の舞台を初めて見たが立派なものだった。会場はざっとの見積もりで200人以上は集めていてなかなかの盛況だった。

第1部はここで開催されている月に1度の能教室参加者の成果を見せるものだった。小さな女の子がかわいい通る声で謡いをしていて写真を撮る人が多かった。(第1部だけは撮影可)腹の底から声を出すトレーニングは確かに身体によさそうだし、本当に声が出るようになれば気持ちよかろう。

次にプロの芸だが、5歳の頃からやっているという現役の大学1年生の三味線弾きが素晴らしいパフォーマンスを見せてくれた。その後は、観世流の高梨良一さんが仕手を務める舞台だ。声が朗々として通るのはさすがだったし、能役者が腰を落として地面に垂直と水平に動く様をじっくり堪能させてもらった。メインイベントは橋弁慶というお題で、例の牛若丸と弁慶の話しだ。ただ都を荒らすのが弁慶でなく牛若丸になっている。高梨さんの説明によると、それはじっとしていられない子役に動きを与えるためだという。牛若を演じたのが能教室に通って4年目の中学生だそうで、しっかりと舞っていた。

他にも衣裳を着せるところを見せて、伝統芸能をじっくり理解してもらおうという工夫がいろいろとあって楽しかった。司会はプロの人だと思うがなかなか上手で、話しがくどくなっている高梨氏から話しをうまく引き出そうとしていた。ただ、橋弁慶のストーリーを司会者がながながと語るところは余計なように思われた。よく知られている話しだから、あのような長い語りは聞いていていらいらするし、能を純粋に鑑賞するのの邪魔になるようにも聞こえた。

それにしても、4時間の長時間の舞台をたくさんのお年寄りがじっと飽きずに鑑賞しているのには驚かされた。高梨氏の話ぶりもそうだったが、年をとると時間がゆっくり流れていて、あまりいらいらしなくなるのかもしれない。小田は、もともと中世には地方豪族の小田氏の居城があったところで、今、その城跡が再現されつつあるところだ。そういう場所で開催される能舞台であったが、そこで流れる時間に同期できない私はまったく修行ができていないと反省させられた。

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