一昨年から知識組織論研究会(KO研)をやっていることについてはなんどか触れました。https://oda-senin.blogspot.com/2024/07/korgj.html
これは国際知識組織論学会(ISKO)がオープンアクセスで公表している知識組織論事典(IEKO)の項目を定期的に読んで議論するものです。現在のところ参加者名簿には57人が登録してくれています。このなかにはベテランの研究者から図書館現場のひとたち,さらには大学院生や学部学生まで多様な人が含まれています。すでに9回目まで実施し,次回は12月12日にSocial Epistemology(社会認識論)を読む予定です。
せっかく研究会をやっているのでその成果を少しずつ公開していけないかということで,一回ごとのレジュメとコメント,そして議論の要約を研究会HPに掲載してきました。が,今回,記事(といっても実質的にはレビュー論文でかなりの長さになります。また,匿名評者による査読が行われている)の翻訳版を公開することにしました。公開先はオンラインジャーナル『メタデータ批評』です。すでに,第二回のKO研で報告した次の2本の記事を翻訳して掲載してもらっています。
ビアウア・ヤアラン著 根本彰訳 知識組織論(KO)http://techser.info/wp-content/uploads/2026/10/523afc7b83167420e2f122136ed667d9.pdf
【抄録】本稿では、知識組織論 (KO) の分野とその中核的な視点である知識組織化プロセス(KOPs) と知識組織化システム (KOS) を示す。本稿では、この分野の研究の伝統、アプローチ、基本的な理論的問題 (実用主義的アプローチと直観主義的アプローチ、コンセンサスに基づくアプローチ、ファセット分析アプローチ、ユーザーに基づくアプローチと認知的アプローチ、ドメイン分析/認識論的アプローチ、計量書誌学的アプローチ、IR アプローチなど) について簡単に説明する。また、本稿では、さまざまな技術プラットフォーム (物理的な図書館、アーカイブズ、博物館、古典的な書誌データベース、インターネット) における KO についても簡単に紹介する。本稿では、図書館情報学に含まれる KO は狭義のものと見なし、狭義のものに必要な知識を提供するには、広義の KO の検討が必要であると主張する。
フルヴィオ・マツォーキ著 根本彰訳 知識組織化システム(KOS)http://techser.info/wp-content/uploads/2026/10/523afc7b83167420e2f122136ed667d9.pdf
【抄録】この論文では、知識組織化システム(KOS) の概念について論じ、その広義と狭義の両方の意味を紹介する。これまでに提案された多数の KOS類型を批判的に分析することにより、意味ツールとしての KOS の深い部分にさらに焦点を当てる。理論的および実践的な問題を検討し、KOS 開発における認識論と概念理論の重要性に焦点を当てる。さらに、情報組織化の新しい傾向 (形式化の推進やデータ駆動型手段の採用など) が将来の KOS の設計にどのように影響するかについて言及し、そのような取り組みにおいて「解釈」とコンテキストベースの評価が依然として役割を果たしているかどうかを検討する。最後に、理論的な結論が提供され、「分類論的パースペクティヴィズム」の概念と、KO 研究における多元主義が (プラグマディズムに基づいて) 統合的な形をとることができるかどうかを精査する。
今回,『メタデータ批評』にお世話になることにしたのは,第一には,ISSNが付与された学術雑誌であることです。単にWeb上に置かれているだけではその管理やアクセス状況にどのような問題が生じるかわからないし,永久保存は望めないかもしれません。しかし,これによって本誌はJ-STAGEに登載され,検索・閲読できるほか、国立国会図書館サーチなどで書誌情報を検索できますし、CiNii ResearchやGoogle Scholarなどでは本文を閲読することも可能になります。
第二に,雑誌発刊の趣旨として次のようにあります。
著者と読者を仲立ちする目録・分類・索引・メタデータをめぐる議論と情報交換の場」と銘打って、図書館分野に限らず、類縁機関(文書館・博物館・美術館等)、出版社、書店、デジタルアーカイブなどの情報も含めた広範囲の情報資源組織化(目録・分類・索引・メタデータ)を対象範囲とする「総合雑誌」です。
本誌は、図書館情報学を核としますが、情報学(ドキュメンテーション)のみならず、書誌学、歴史学、哲学、教育学、言語学、文学、社会学、法学、経済学などの観点からの投稿も大歓迎します。
これはISKOの知識組織論の範囲設定と密接に関わりますし,とくに学際的なスタンスを標榜していることも好ましいと考えました。
現在の予定では,5号に合計10本の記事の翻訳を掲載してもらう予定です。各翻訳の冒頭には訳者解題を付し,必要に応じて訳注等も掲載します。また,訳文については研究会内部での相互チェックも行う予定です。
さて,二つの記事について簡単に紹介しておきます。
ビアウア・ヤアラン著の「知識組織論(KO)」ですが,知識組織論全体を概観するレビューとなっているものです。ヤアランについては,『知識組織論とはなにか』(勁草書房)の概説書があり,このレビューはそれも含めてその後20年の全体をまとめたと考えられます。ただし,知識組織論という分野そのものが必ずしも確定していないものであり,その意味では著者自身がこの事典の編集責任者としてこの領域を背負っていくという意図が明確になっている論文ということもできます。逆に言えば,『知識組織論とはなにか』に見られる緻密な論理の積み重ねではなく,骨格をつなぎ合わせた知識組織論の標本のようなものと考えた方がいいと思われます。彼自身のこの20年の考察はむしろ,本事典のほかの30あまりの項目で展開されていて,それらを読むためのイントロダクションといった方がいいかもしれません。
フルヴィオ・マツォーキ著 「知識組織化システム(KOS)」はKOを構成する要素がKOのプロセスとKOのシステムの二つがあるとされるうちのKOシステムを扱った記事です。KOシステムは,実際に知識組織化のためにつくられたシステムのことなので,われわれになじみ深い索引法や分類法,情報検索などのシステムについて論じられますが,扱われるのはそれらを貫く組織原理の理論的根拠です。つまり個々のシステムだけでなく知識組織化のための手法がどのような理論から導かれているのかを議論しようとします。その際に,ヤアランのKOの議論と親和的にプラグマティズム的立場を選択しますが,それをドキュメントと利用者の相互作用による意味空間の深層構造を探る科学哲学的議論を行います,
ヤアランはKOの対象としての資料(KOにおいてはこれをドキュメントとするのが一般的ですが,「文書」とか「文献」と訳さないでKO研では「ドキュメント」のままとします。これについては,別項目のマイケル・バックランド「ドキュメント」で詳しく述べられます。)とそれを利用する人とをどのようにつなぐかがKOの基本的枠組みだとして,枠組みを把握するための認識論としていくつか挙げた上で,どれも否定し,自らはプラグマティズムを選択しました。マツォーキはそれをさらに深掘りする議論を行ったということができます。
これら二つの記事は,いささか抽象的な議論なのでKOが何なのかはまだあまり明確になってはいません。しかしながら,今後,研究会で読んだ項目(ドキュメント,主題,索引,分類,メタデータなど)の翻訳が出る予定で,これらが出そろったところで全体像の一部が見えやすくなると思います。

0 件のコメント:
コメントを投稿