SLILの学校図書館政策に関する講演シリーズ
① アメリカのスクールライブラリアンは何をしているのか?(4月9日)
③ 学校図書館支援のためのエビデンス(4月14日、この項目)
SLIL講演を振り返って、学校図書館を国の教育政策として位置付けるための具体的方策についてもっと考察すべきと考えた。それは、参加者の事後アンケートでも望む声が少なくなかった。そこで、今後どのような実践とそれに関わる研究が必要なのかについてメモしておきたい。大きくは理論的研究と実践研究、それらを基にした政策提言という順序で進める必要がある。
1)理論的研究
学校図書館が教育課程に寄与するという場合に、そこにある資料や情報を収集・管理・提供するという機能を示すだけでは十分ではない。それでは何が可能か。以下は半ば思いつきではあるが重要な理論的研究のテーマである。
・ジョン・デューイの教育学と学校図書館との関係:デューイの探究(inquiry)概念が探究学習の原点にあることについて講演で触れたがまだきちんと解明されていない。ウィーガンドの『アメリカ公立学校図書館史』にもほんの少ししか触れられていない。ここは、デューイの教育学⇒[アメリカ進歩主義教育協会⇒ニューディール期の学校図書館ハンドブック⇒]『学校図書館の手引』⇒図書館教育研究会、という影響関係が考えられる。[ ]の部分がブラックボックスになっている。アメリカでもこうした理論研究は行われていない。
・デューイの探究概念の哲学的研究:これはすでにアメリカでも日本でもある程度は進められている。日本だと、早川操『デューイの探究教育哲学:相互成長をめざす人間形成論再考』(名古屋大学出版会, 1994)、藤井千春『ジョン・デューイの経験主義哲学における思考論:知性的な思考の構造的解明』(早稲田大学出版部, 2010)、谷川嘉浩『信仰と想像力の哲学:ジョン・デューイとアメリカ哲学の系譜』(勁草書房, 2021)などがある。これらで不足している外部知、間接知についての考察を加えることが重要なポイントとなる。
・国際バカロレア(とくにIBDP)のカリキュラムの検討:国際バカロレアが知の獲得の方法として、知の理論(TOK)、課題論文(EE)を課している。これらが学校図書館を前提としていることについて、アンソニー・ティルク『国際バカロレア教育と学校図書館:探究学習を支援する』(学文社, 2021)で詳しく述べられている。また、とくにTOKが一般的科目と探究学習をつなぐ重要な役割を果たしているとの観点から学会発表をしたことがある。
2)実践的研究
・学校図書館の実践:講演記録のなかで、山形県鶴岡市と岡山県岡山市の学校司書配置について触れた(記録 p.19-20)。これらは歴史ある実践事例であるが、現在の学校図書館政策にうまくつながっているのかどうかを検証する必要がある。また、沖縄の学校図書館が本土とは制度的な経緯が異なっていることがどのように関わるのかについて別に検討が必要である。他にも、学校図書館政策に力を入れている自治体あるいは学校は少なくないのだが、それが個人の努力だけでなく組織として成果を挙げるに至っているかどうかが問われる。
・地域学習リソース拠点の実践:その意味で、古くから学校図書館支援センターが置かれている千葉県市川市の事例を見ておきたい。市川市教育委員会に教育センターがあり、その事業のなかの「教育課程や教育内容・方法の調査研究に関すること」として、「公共図書館と学校を結ぶネットワーク」があり、次に「教育におけるデジタル化の推進に関すること」に「学校情報化研究事業」「市川GIGAスクール構想 (ご家庭でのご使用)」がある。市内の学校で共通する資料や教材、教育情報が扱われていることが重要だろう。学校図書館には会計年度任用職員が配置されている。次の図のようにデータと物流のネットワークが形成されており、これがGIGAスクールと結びつくと、教材コンテンツの契約と配信・利用が可能になる可能性がある。
講演参加者から新潟市の学校図書館支援センターの事例について教えていただいた。確かにここの報告書をみると、市立中央図書館に支援センターを置いて、正規職5人を含めて市内全校に職員を配置して学校図書館が読書センターのみならず、学習センター、情報センターの役割を果たそうとしている様子がうかがえる。毎年報告書を出しており、充実した活動のように見えるが、今後必要なのはこれを教育評価のサイクルのなかで位置付けることだろう。つまりこの活動がどのような教育効果を挙げたのかを評価することである。また、他のところの参考にするためには、これがどのような経緯でできたのか、そのための準備などについても明らかにされるとよい。また、他に類似の事例があるのかどうかについても情報が交換されるとよい。
・県単位の学校図書館支援センター:鳥取県では、県立図書館に学校図書館支援センターが置かれていることは知られている。県の規模が大きくなければ、県立図書館が県域の教育委員会や学校に対してこうした支援機能を積極的に果たすことが有効な場合がある。これについても、どのような教育効果に結びついたのかについての評価が行われるべきだろう。
先のSLIL講演会 学校図書館改革を戦略的に考える へ参加させていただいた。現在、学図研へ小論を投稿しており、その中で、「地域学習リソース拠点」について、「地域学習」を自治体の公共政策、「リソース拠点」を戦略手法と見立てた。おっしゃるとおり、発展途上の学校図書館を公共図書館が支援するという関係にない。一方、私は中学校区ほどの範囲の数校の学校図書館と、地域の公共図書館の協力的な関係性を考えている。その時、「リソース拠点」は、パートナーである公共図書館の役割となるかもしれない。
返信削除コメントありがとうございました。公共図書館と学校図書館の連携を考えるのは、すでに始まっている公共施設の統合再編が念頭にあるからです。施設は縮退しても、人的資源と情報資源は十分に展開できる体制づくりが必要だと思います。
返信削除学図研7月号(NO449)に、神奈川県の学校図書館職員の方の3月SLIL講演会の参加報告が掲載されているのを御存知でしょうか。私も投稿しましたが、現場の人の原稿の方が会員の皆さんにわかりやすいので、結果的に良かったと思っています。私は、自治体の公共政策の視点が中心になり、現場の方にわかりにくいかもしれません。今回の参加報告により、探究に取り組んでおられる現場の皆さんの意識もさらに広がると思います。
返信削除(内容照会は、メール: gakuto_news@yahoo.co.jp 編集部の坂口さんへ)