6月25日に、表記の本を刊行予定です。
この本は、私が携わってきた領域のなかで、学校図書館にかかわるものを集大成したものです。 とくに今の教育改革と戦後の学校図書館の制度と位置づけがねじれた関係にあったことを整理し、このねじれを解くため提言をしています。
たとえば、1953年の学校図書館法ができるときに、実は文部省でも当時の経験主義教育を支援するために学校図書館制度をつくる動きがあり、専任司書教諭の配置までを視野に入れていました。東京学芸大学の附属学校ではそのために「図書館教育」のモデルカリキュラムの実験をしていました。これがなぜ「教諭をもって充てる」かたちのでの司書教諭が制度化されてしまったのか。当時の教育学者はこの動きに対してどのような反応を示していたのか。第Ⅰ部ではこの問題を取り上げます。このなかでは第3章は書き下ろしです。学校教育学のなかでもとくに教育課程論や教育方法学と学校図書館の関係がねじれたままになったのがなぜだったのかについて、考察しています。
第II部はその後の教育改革のなかで学校図書館問題がどのように位置づけられたのかについて、さまざまな角度から論じています。第6章では、ここ20年ほどで行った実証的な調査についてのまとめを掲載しました。
第III部では、外国の事例について述べました。アメリカについては書かれたものがけっこうありますが、ここではとくにフランスを取り挙げます。実はアメリカもフランスも20世紀の百年をかけて教育改革をつづけていますが、そのなかでアメリカでは20世紀なかばに、フランスでは20世紀末に、学校図書館の制度化と専門的な図書館員の配置の制度化を進めました。私は教育改革は100年単位で考えるべき問題と思いますから、この二つの国が若干の時差をもちながらその選択をした理由がなんなのか、日本ではその条件が整っているのかという問題意識から取り組みました。
第IV部は、まとめですが、第9章ではLIPER(図書館情報学専門職養成のリニューアル)学校図書館班で取り組んだ政策的課題をまとめています。そして最終章もまた書き下ろしでここまでの議論を整理し、若干の政策提言も含めて論じました。
全体でA5判で340ページにもなりました。それだけ複雑で困難な問題が横たわっていたからです。ここで述べた図書館と教育の関係の議論は、
『情報リテラシーのための図書館』(みすず書房, 2017)に続くものです。価格もずいぶん高くなりましたがm(_ _)m、この領域では今までになかった総合的な考察をした書物であると自負しています。
<目次>
序
第I部 戦後の出発点の確認
第1章 戦後学校図書館制度成立期研究の現状
第2章 占領期における教育改革と学校図書館職員問題
第3章 戦後教育学の出発と学校図書館の関係
第II部 教育改革と学校図書館
第4章 学校図書館における「人」の問題
第5章 教育改革と学校図書館の関係を考える
第6章 教育改革と学校図書館制度確立のための調査報告
第III部 外国の学校図書館と専門職員制度
第7章 フランス教育における学校図書館CDI
第8章 米国ハワイ州の図書館サービスと専門職養成システム
第IV部 日本の政策的課題
第9章 学校内情報メディア専門職の可能性
第10章 日本の教育改革の課題と学校図書館の可能性
あとがき
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2020年12月24日追記
この本をもとにした研究業績により2020年2月に慶應義塾大学より博士(図書館・情報学)が授与されました。その経緯や論文要旨、要約、審査要旨および審査に対する応答をブログにアップしました。