2022-12-26

21世紀の図書館建築 欧米編

関連ブログ記事:世界の図書館写真集(2022年5月13日)

世界的にみて21世紀になった世紀の変わり目で新しいコンセプトの図書館建築が続いた。それはたとえば次のような図書館である。どれも最新のテクノロジーを駆使しているが、基本は資料あるいは情報を来館者にスムースに提供しその場で何らかの知的作業ができるようにということで共通している。つまり、研究室や自宅での作業では決して得られない付加価値を明確に提示するからこうした「場所としての図書館」に莫大な建築費と運営コストを惜しまないのである。

  1. フランス国立図書館フランソワ・ミッテラン館(1994)
  2. デンマーク王立図書館ブラックダイアモンド(1999)
  3. 新アレクサンドリア図書館(2001)
  4. ザクセン州立図書館兼ドレスデン工科大学図書館(2002)
  5. シアトル市立中央図書館(2004)
  6. ブランデンブルク工科大学(2004)
  7. ユトレヒト大学図書館(2004)
  8. ベルリン自由大学文献学図書館(2005)
  9. シュトゥットガルト市立中央図書館(2011)

ブラックダイアモンドの写真

次は2014年に訪ねたデンマーク王立図書館の写真(筆者撮影)である。旧い図書館と新しい図書館が同居していることからくるインパクトは大きかった。そのことは、『場所としての図書館、空間としての図書館』(学文社, 2015)に書いた。機能でも場でもない建物としての図書館の重要性を考察すべきことを教えられた。



運河に面したデンマーク王立図書館、右手が新館ブラックダイアモンド、それと繋がったレンガ造りの旧館がある






新館内部から運河を見たところ









新館の明るい閲覧室






旧館の閲覧室(きわめてオーソドックスな西洋図書館の意匠)



次に、図書館建築の歴史的展開を紹介する記事を示す。

Laura Itzkowitz

The Architectural Evolution of Libraries

The ultimate temples of knowledge, libraries have continually changed in nature over the centuries.


原記事をご覧頂きたいが、著者の許諾を得たうえで仮訳を下に示しておく。

================================

図書館の建築上の進化

究極の知の神殿としての図書館は世紀を超えて性質を変えてきた

ローラ・イツコヴィッツ(フリーランスライター)

図書館のない文明社会は考えられない

書物のコレクションとしての図書館とそのコレクションを収容する建物は、古代メソポタミアにさかのぼり、多かれ少なかれ文字の出現の時期と一致しています。何世紀にもわたって、図書館建築は、多くの場合、その用途、時代の建築トレンド、およびそれらを構築するために利用可能な技術に応じて、いくつかの進化を遂げてきました.

図書館は単なる本の保管庫ではなく、文化的富と知識の象徴です。図書館の建設、修復、改築は、建築家だけでなく一般の人々にとっても重要であり、それを担う権限をめぐっていくつのもの企業が競い合っています。

この記事では、歴史を通じて図書館の類型をたどり、古代アレクサンドリアからロボットが保管庫から本を取り出すノースカロライナ州ローリーのハント図書館まで、世界で最も重要な 12 の図書館に焦点を当てます。

アレクサンドリア図書館(The Royal Library of Alexandria, 3rd century BC, Alexandria, Egypt)


世界で最も重要な図書館はエジプトのアレクサンドリアにあり、今日の図書館のモデルとなっています。アレクサンドリアの図書館は大学のキャンパスのように建てられ、テキストを保管する部屋と勉強する部屋がありました。アレクサンドリア図書館は火事で破壊されました。おそらく、ジュリアス・シーザーによる攻撃を含む数回の攻撃で破壊されました。

海印寺 Haeinsa Monastery(Photo via The Telegraph)


海印寺は私たちが図書館と考えているものではありませんが、ユネスコによれば、中世以来、「世界で最も完全で正確な仏教教典のコーパス」である高麗大蔵経が所蔵されています。海印寺は、印刷機が発明される前にページを印刷するために使用さ れた木版のリポジトリです。版木は本棚のように棚に保管されており、建物は世界最大級の木造保管施設です。

マルチャーナ図書館

Library architecture (Photo Credit: felibrilu,)


Biblioteca Marciana, 1564, Venice (Photo via Zero)


ヴェネツィアの守護聖人であるサン マルコにちなんで名付けられ、サン マルコ広場にあるマルチャーナ図書館は、ルネッサンスの建築家ヤコポ・サンソヴィーノによって設計されました。イタリアで現存する最古の図書館の 1 つであり、世界で最も優れた古典文献のコレクションの 1 つを含んでいます。もともと、本は学校の机のように並んだ書見台に長い鉄の鎖で固定されていました。中世とルネサンス期には、本が盗まれないように本はしばしばこのように保管されていました.

トリニティカレッジ図書館 Trinity College Library,1732, Dublin(Photo Credit: Jeurgen Jauth)


は、トーマス・バーグの傑作であり、今でもアイルランド最大の図書館です。元々、天井はフラットで、ギャラリーには本がありませんでした。建築家のディーンとウッドワードは、1856 年に図書館の大規模な改修を完了しました。これは、図書館に法定納本の権利が与えられた後に蓄積された本を収容するためでした。つまり、アイルランド共和国で出版されたすべての本のコピーを受け取ることになりました。

ラドクリフ カメラ Radcliffe Camera, 1749, Oxford, England (Image via The English Home)


ラドクリフカメラは、イギリスで最初に建設された円形図書館です。それは医師のジョン・ラドクリフによって資金提供され、クリストファー・レン卿の弟子であるニコラス・ホースクムーアと、建設が始まる前にホークスムーアが亡くなったときに建築家として引き継いだジェームズ・ギブスによって設計されました。これは、英国のパラディオ建築の優れた例です。図書館はドームを中心としており、コリント式の列を含む古典的な詳細がいっぱいです。

アドモント修道院 Admont Library, 1776, Admont, Austria (Photo Credit: Keith Ewing)


アルプスのアドモント修道院内の図書館は、まるでおとぎ話のようです。ポルトガルのマフラ図書館に次ぐ、世界で最も長い修道院図書館の 1 つです。徹底的にロココ調のデザインで、本はもともと壁に合わせて白い革で装丁されていました。図書館は決して研究のために使用されたのではなく、修道院のコレクションを誇らしげに展示する場所として使用されました。僧侶たちは本を読むために個室に本を持ってきました。

サント・ジュヌヴィエーヴ図書館 Bibliothèque Sainte-Geneviève, 1850, Paris (Photo Credit: Paula Soler-Moya)


カルチエラタンの中心部、パンテオンのすぐ近くにあるサント・ジュヌヴィエーヴ図書館は、パリで最も壮大な図書館です。同時期に建設されたボザール様式の鉄道駅に似せて、アンリ・ラブルーストによって設計されました。建築家が鋳鉄を使い始めたのは比較的最近のことで、鋳鉄が繊細なパターンを作成できるだけでなく、重い荷重にも耐えることができることが分かってきたからです。これは、図書館だけでなく、建築術全般に貢献しました。

ニューヨーク公共図書館 New York Public Library, 1911, New York City (© Davis Brody Bond LLP, EverGreene Architectural Arts)



で最も有名な図書館の 1 つであるニューヨーク公共図書館の本館は、42 丁目と 5 番街の交差点にあり、この街の文学的伝統とボザール建築の傑作を示す場となっています。カレールとヘイスティングスによって設計されたこの建物は、完成時に米国で建設された最大の大理石の建物でした。エヴァーグリーン建築工房が、このローズ・メイン・リーディングルームの修復を担当しています。

イェール大学バイネケ貴重書・手稿図書館 Beinecke Library, Yale University, 1963, New Haven, Connecticut (Image via Dezeen)



スキッドモア、オウイングス&メリル(SOM)のゴードン・バンシャフトは、1963 年にイェール大学のモノリシックな バイネケ貴重書・手稿図書館を設計しました。バーモント州の大理石のファサードは、太陽が強いときは内部が光っているように見えますが、本を有害な光線から保護します。 SOM は、バーモント州の大理石と花崗岩、ブロンズ、ガラスを使用して、このモダニズムの傑作をつくりました。図書館の中央にある 6 階建ての照明付きのスタックに本が保管されています。

フランス国立図書館 Bibliothèque Nationale de France François Mitterrand, 1994, Paris (Photo Credit: Natalie Hegert)


1989 年、当時のフランス大統領フランソワ・ミッテランは、フランス国立図書館の一部となる新しい図書館の国際デザインコンペを発表しました。入札の結果、ドミニク・ペローによる巨大な遊歩道の四隅にある開いた本のような形をした 4 つのガラスの塔を組み込んだ記念碑的なデザインが選ばれました。ペローのデザインはモダンでミニマリスト的であり、フランス人から多くの批判を受けましたが、その後、多くの人がこの図書館のデザインを賞賛するようになりました。読書室は下に沈んだところに置かれ、木が植えられた中庭の周りに配置されています。

シアトル中央図書館 Seattle Central Library, 2004, Seattle,(Photo Credit: Andrew Smith)


Image via Divisare


オランダの建築工房OMA のレム・コールハースとアメリカの建築工房REX のジョシュア・プリンス・ラムスは、シアトルを拠点とする LMN アーキテクツと協力して、2004 年に完成したシアトル中央図書館を設計しました。講堂、会議室、ブックスパイラルとして知られるスタックシステム、4 階建ての書庫がなだらかなスロープでつながっており、コレクションの 75% がそこにあります。明るいリーディングルームは約 12,000 平方フィートで、図書館には 400 台のコンピューター端末が収容されています。建物のコンクリート、スチール、ガラスの斜めグリッド システムは、風や地震の横方向の力に耐えるように設計されています。

ノースカロライナ州立大学ハント図書館

James B. Hunt Jr. Library, 2013, NC State University, Raleigh, North Carolina (Image via Architizer)


Robot stack management (Image via Architizer)


エグゼクティブ・アーキテクトの Pearce Brinkley Cease + Lee と Snøhetta によって設計されたノースカロライナ州立大学の新しい図書館は、ロボットによって運営されています。正確には、BookBot は、図書館の 150 万冊の本を 5 分以内に取得するようにプログラムされています。図書館の常連客はガラスの壁越しに、建物の内部に隠されたスーパーコンピューターによって指示された bookBots が Robot Alley ストレージ エリアをズームする様子を見ることができます。このシステムは、オープン・スタックに必要なスペースの 9 分の 1 を使用し、勉強部屋、ラーニング コモンズ、講堂、および 3D プリンター、3D スキャナー、レーザー カッターを備えた メーカースペースとしての貴重な場を提供してくれます。

================================

ここで最後に紹介されているノースカロライナ大学のハント図書館のホームページとその内部を紹介したビデオを見ていただきたい。とくにビデオがこの図書館のコンセプトをいろんな人が説明していて参考になる。上の記事に、ロボットによる書庫管理が可能になって、その分空いたスペースで来館者が種々の作業ができるようになるメリットをもたらしたとある。このようにスタックを単位として移動させてアクセスする方式は開架と閉架の中間になるのだろうが、ほとんどの蔵書がこうなったときに何をもたらすのか。これはGoogle BooksやNDLデジコレのスニペット表示にも似て、今後の知のアクセスの考え方に影響を与えるものだろう。スペース vs. 情報アクセスが対立構図になるような設計思想だと問題が大きい。

それにしても「知の神殿」という図書館の比喩は西洋ではよく使われるが、日本ではめったに聞かない。これを一神教的な知的伝統がないことにつなげる議論もあるが、それほど単純な話しでもないように思う。そうした知の在り方についての深層部分の成り立ちとともに、その上に歴史的にどのように知の層が積み重なってきたのか、そしてそれを我々がどのように認識しているのかに関わる問題である。





2022-12-08

Google Booksと同じような検索ツールは誰でもつくれる

国会図書館のデジタルコレクションの規模の大きさと性能のよさ、そして、12月21日より大規模な全文テキスト検索システムが提供されることなどに目を奪われがちですが、実はこれと同じようなものをつくることを可能にする著作権法改正が、2018年に行われていることを思いだす必要があります。この点について、議論段階は以前にブログでも紹介しましたが、肝心の法改正については触れていなかったので、改めてリンクだけ貼っておきます。



2018年5月の著作権法47条の5関係


 国会図書館のデジタルコレクションの全文テクスト検索が気になって、次の本をみていました。

 一般財団法人人文情報学研究所, 石田友梨他『人文学のためのテキストデータ構築入門: TEIガイドラインに準拠した取り組みにむけて』文学通信, 2022. 

 このなかのコラムで国会図書館の南亮一さんが、「著作権法改正でGoogle Booksのような検索サイトを作れるようになる?」(p.400-408)を書いているのに気づきました。これはたいへん参考になる情報です。 その記述によると、作れるがいくつかの要件を満たす必要があるとのこと。詳しくは当該書を見ていただくことにして、最後にまとめられている要件を引用しておきます。

・蓄積したデータの漏洩防止措置を講じること 
・サービスの適法性を担保するために、著作権法(47条の5)の解説書や解説記事の閲覧や著作権法の専門家への紹介などの取り組みを行うこと 
・検索サイトのトップページなどに連絡先を明記すること 
・表示する著作物は、インターネット上の著作物か、公表されている著作物であること 
・サムネイルやスニペット表示の分量が、検索の目的に沿った検索結果となっているかを検証できる範囲の分量に留まっていること 
・表示されている割合や制度、大きさが軽微であること 
・著作権者の利益を不当に害するような表示をしないこと 
・海賊版であることを知りながら表示をしないこと 

の9点です。これは要するに、著作権があり売られている本であってもデジタル化、テキスト化して検索システムをつくって公開することはOKだが、表示可能なのは限定的部分なのでそのような法に沿った運用をしていることが外から分かるようにしておけばよろしいということです。そうした検索システムを構築することに比べたら各段に小さな問題です。

ということで、こうした検索サービスが可能になっています。これってGoogleや国会図書館がやったことを誰でもできるようになったということですね。まあ、技術力とお金という前提的な問題はありますが。NDLのデジタルコレクションが基幹的なものであるとすれば、それをもっとローカルあるいはミクロなレベルで補うようなサービス構築は誰でも可能になっているので、ぜひ進めていきたいものです。とくに地域資料や郷土資料、主題や分野毎の全文テキスト検索ですね。また、そうしたものの構築を推進するような仕組みをどこかでつくる必要があると思います。

新著『知の図書館情報学―ドキュメント・アーカイブ・レファレンスの本質』(11月1 日追加修正)

10月30日付けで表記の本が丸善出版から刊行されました。11月1日には店頭に並べられたようです。また, 丸善出版のページ や Amazon では一部のページの見本を見ることができます。Amazonではさらに,「はじめに」「目次」「第一章の途中まで」を読むことができます。 本書の目...