2020-12-21

「図書館関係の権利制限規定の見直し(デジタル・ネットワーク対応)中間まとめ」についての意見

現在、著作権法において図書館関係の権利制限規定の見直しの議論が文化審議会著作権分科会で進められている。すでに、法制度小委員会の議論の中間まとめが公表されていて、これに対してパブリックコメントが求められている。 

文化審議会著作権分科会法制度小委員会「図書館関係の権利制限規定の見直し(デジタル・ネットワーク対応)に関する中間まとめ」に関する意見募集の実施について

こうしたものに個人の立場から意見を出してもどれだけ取り上げられるのか疑問はありながらも、以前よりも開かれた場で議論を進めようとしていること自体は望ましいものと思われるので、意見を伝えることにした。図書館関係者の間では今回の議論は唐突に来たもののようにも受け止められているが、背景には安倍ー管政権が進めようとしているデジタル庁の動きがあり、これに連動していることは明らかだ。そしてそのときに図書館がもつコンテンツに着目しているわけである。そのことについては中間まとめを参照していただきたい。


————————{回答内容}——————————————————————

1)総論 (第1章 問題の所在および検討経緯を含む)

 知的財産推進計画2020にある「研究目的の権利制限規定の創設」についてきちんと言及されていないように思われます。現行の31条第1項は「調査研究の用に供するため」とありますが、この範囲を超えた権利制限規定をつくろうとしているのかどうかがよく分かりません。どうもそうではなさそうですが、そうならばその旨言及していただきたいです。


(2)第2章第1節 入手困難資料へのアクセスの容易化(法第31条第3項関係)

① 対応の方向性

 私は現在国立国会図書館に設けられた納本制度審議会委員を務めています。現在、納本制度の一環でオンライン資料の納入範囲を議論するなかで、「民間リポジトリ」を納入対象からはずすことが検討されています。民間リポジトリが運用されることにより、そこに含まれるオンライン資料は「一般に入手することが困難な図書館資料」ではなくなります。これ自体は著作権の制限と直接関係ないのですが、今後民間リポジトリ等が普及することにより、「入手困難な資料の容易化」という目的の実効性があやうくなるのではないかということを危惧します。つまり、現在、出版物は電子テクストが先につくられそこから印刷されたり電子書籍化されたりするわけですが、今後そうしたものはすべて民間リポジトリに置かれて、国会図書館から送信される資料は古いものに限られることになってしまいます。もちろん古いものの入手が容易になること自体にも意味はありますが、国民(とくに研究者)が期待していることとずれるのではないでしょうか。そのあたりの議論がされてこういう提案がなされているのかどうか疑問に思いました。「デジタル化」の看板が先行し、中身が伴っていないように思われます。


(4)第3章:まとめ(関連する諸課題の取扱いを含む)

 学校図書館を31条の「図書館等」に追加することはぜひ進めるべきだと考えます。これは、現在の国際的な教育改革の動向、とくに2021年実施の学習指導要領で「探究」関係の教育課程が増えたこと、文字・活字文化振興法や子ども読書活動推進法の趣旨等から言って当然のことです。

 しかしながら、現在の学校教育法施行規則や学校図書館法の条文では学校図書館は学校の「設備」扱いになっています。ということは法的には学校図書館への専門職員配置等がされにくいわけで、司書教諭は名目だけであり、学校司書の専門性は重視されていません。そのために「図書館等」に含めるために必要な著作権法の研修等が可能なのかなどの検討をすべきだと思います。

 そもそも、学校図書館や職員の位置づけについて、文科省の総合教育政策局や初等中等教育局を含めた場での基本的な合意をとらないと進められないものではないかと思われます。著作権法が対象とする著作物は教材ないし教育資源として大きな可能性をもっていて、21世紀の残りの時期に教育課程および教育行政において大きな位置づけを占めるものです。(以上のことは拙著『教育改革のための学校図書館』(東京大学出版会)および1月刊行予定の『アーカイブの思想:言葉を知に変える仕組み』(みすず書房)で詳説しています。)

 デジタル庁が開かれることを機会に、文化庁から文科省の他の部門に対して、著作権行政の観点から、図書館における著作物の権利制限条項が教育政策の要になることをもっと強く主張すべきではないかと思います。

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