朝日新聞の5月28日(土)に掲載された私の書評記事が朝日のサイトに再掲されたので共有します。
https://book.asahi.com/article/14633053
この記事では次の3点を紹介しました。
・リチャード・オヴェンデン『攻撃される知識の歴史 なぜ図書館とアーカイブは破壊され続けるのか』(五十嵐 加奈子訳)柏書房, 2022
・小出いずみ 『日米交流史の中の福田なをみ 「外国研究」とライブラリアン』勉誠出版, 2022
・永田治樹『公共図書館を育てる』青弓社, 2021
ここではいずれも図書館にかかわりますが、まったく違った種類の書籍を紹介しました。編集者とのあいだで、「図書館専門職」と「インテリジェンス」という言葉を使用したこと、また使用する写真について少しやりとりをしました。
一つは、最初の本の著者オヴェンデン氏は英国の大学図書館でスペシャルコレクションを担当してきた人ですが、今はオックスフォード大学の中心館ボドリアン図書館の館長を務めています。こういう人を図書館専門職と呼んでよいのかということですね。
これについては同館のHPの紹介欄で、氏には写真の歴史や本書のような図書館史とともに図書館情報マネジメントの業績があることを伝えています。
https://www.bodleian.ox.ac.uk/about/libraries/bodleys-librarian#collapse2620226
この記事を見ると歴代の館長の紹介欄があります。館長のキャリアは概ね図書館畑で長年仕事をしたことが評価されてのもののようです。その意味で氏もまた図書館専門職と言ってよいと考えます。歴代の館長には図書館情報学の専門教育を受けてきた人とそうでない人がいます。オヴェンデン氏は専門教育は受けてないようですが(記事の特性上あれば触れていると思われるので)、前館長は女性でアメリカで図書館情報学の修士号をとったキャリアの持ち主のようです。いずれにしても、何らかの領域でPh. D.を持っていることは必須のように見えます。
小出いずみ氏の本については、福田なをみが日米の戦時体制とその前後の時期にインテリジェンス業務に関わったと書きました。図書館員がインテリジェンスというと不思議に思う人もいるかもしれません。アメリカでは第二次大戦時に図書館員がワシントンDCに呼ばれて外国情報の調査分析業務に当たっていたことはよく知られています。その部門、情報調整局(COI)は戦時情報局(OWI)を経て戦後に中央情報局(CIA)になります。小出さんはインテリジェンスの用語を使っていませんが、公開された情報の分析が図書館員の仕事の延長上に置かれていたことが詳しく書かれています。日本でも、国会図書館の調査及び立法調査局の業務は広義のインテリジェンスだと思いますし、ジェトロのアジア経済研究所図書館もまたインテリジェンス業務に携わっていると言えるでしょう。朝日の編集担当の方もその表現に別に違和感はないとのことでした。
永田治樹氏の本についてですが、この本は出たときに読売新聞と日本経済新聞に書評がありました。内容的には新公共経営論の考え方に近い図書館論という感じもしますが、イギリスの福祉国家的な公共図書館論が凋落した経緯やコミュニティ図書館論から多文化サービス的な図書館論が出てくる背景が分析され、それが、北欧の都市であっても財政難に悩んでいるなかで新しい技術とサービスの融合が図られる状況につなげて記述されます。私は、20世紀後半の「市民の図書館」は日本版福祉国家政策の一環と見てよい側面があると考えていますので、その後を考えるのにはふさわしい本だと思います。
この記事で使われた写真ですが、新聞紙面では小さく白黒なのであまりよく分からないのですが、画面上でカラー写真を見るととても図書館の写真には見えないですね。これは、岐阜市立中央図書館を訪問した人ならおわかりと思いますが、この笠のようなオブジェがいくつも広い館内にぶら下がっていて、その全体像の方がよく紹介されています。こういう感じなので今回の写真には最初違和感がありましたが、この記事自体が図書館をステレオタイプで見てほしくないというメッセージでもあったのでこれはこれでいいかと思った次第です。
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