2018-04-20

「図書館はオープンガバメントに貢献できるか」報告(3)

「報告」(2)に書いたことが、今回の集会の背景である。私の個人的な思いから開かせていただいた。要するに、オープンガバメントという理念を図書館関係者がどれほど意識しまた実践しているのかを確認したいということである。ワークショップという形式を標榜して出席者に質問や意見を書いていただきたいというところが重要であり、それについては実際にさまざまな書き込みが40件以上得られた。これをHPに出したところから、次の過程が始まる。ワークショップという意味では非常に不十分なものに終わったことは率直にお詫びしたい。だが、参加者の多くはこの問題には解決策が用意されているのではなくて、これから皆でつくっていくべき性質のものであることをご理解いただいたのではないかと思う。

豊田さんが「これは行政支援ではありません」というタイトルでした講演がいみじくも示しているように、図書館が実施するサービスは公費で実施するものである限り、すべてが行政支援の性格をもっている。日野市の市政図書室の担当者は、うちでは行政支援サービスはしていませんと明言されているのだが、これが意味することは、日野市の図書館が「資料提供」モデルを提示したことに市政図書室のサービスも含まれているのであり、そこでは市民も行政職員も議員も等しく利用者として扱うのだということだ。つまり広義の資料提供は必然的に行政資料サービスや行政支援を含むのだということだろう。

私が残念に思うのは、日野市は「市民の図書館」モデルの原点にある図書館であり、市政図書室までつくってモデルが完成したはずなのだが、市民の図書館とは貸出を中心とするサービスなのだという誤解を与えてすでに40年の月日が過ぎていることである。それはもちろん日野市立図書館の責任ではない。日野市は貸出だけでなくレファレンスサービス、地域資料サービスも十全以上に実施している。

私が自著で何度も書いてきたように、資料提供論の原点となった『市民の図書館』(日本図書館協会 1970)は、日野が移動図書館と地域図書館だけでサービスをしていたものをベースに書かれている。その後、中央図書館(1973)ができ、また、市政図書室(1977)ができて、日野市立図書館サービスの全体像が完成した。しかし、それを踏まえての「資料提供論改訂版」は示されなかったのである。1980年代には前川恒雄『われらの図書館』、竹内紀𠮷『図書館の街浦安』が読まれて「資料提供論」が定着したと思われるが、そこで示される図書館論は貸出を中心とした資料提供論の枠を出ることはできなかった。 貸出を中心とすることは、図書館を地域社会に定着させるための戦略だったという解釈も成り立つのだが、それなら状況に合わせての戦略変更があってしかるべきだった。21世紀になって、文科省が「これからの図書館像」(2006)や「図書館の設置及び運営の基準」(2012)を出して新しいタイプの図書館運営モデルを出した。しかし、出た時点で貸出図書館モデルはすでに日本社会の深いところに染み込んでしまっていて、容易に変更できないものになっている。

先に触れた情報公開と図書館の関係の議論の根底には、日野が市政図書室を設置したことのインパクトがあった。つまり、地域行政資料を集め、行政職員の身近なところで行政支援的なサービスをすることが図書館の自然な発展であったということである。市政図書室は正規職員が3人ついてサービスを実施している。当該自治体、周辺自治体、都道府県までを含んだ行政資料の収集と蓄積・保存、行政職員に対する積極的な予約、貸出、配送、専門性を生かしたレファレンスサービス、新聞記事の切り抜きの各課への配送、新聞記事見出しのデータベース化とそのインターネット配信などが行われている。日野市職員の意識調査を実施したところ、予想以上に利用があることがわかった。その結果の一部は、当日配付資料に掲載しているが、本格的には別のかたちで公表する予定にしている。

日野は特別だという声もある。市政図書室が可能だったのは、初代市長有山崧氏がいたからだとか、できた当時、前川恒雄氏が助役をやっていたとかいうことである。政治あるいは行政の判断が大きな力をもつことは確かだろうが、その二人は日野市立図書館、ひいては「資料提供論」の産みの親なのだから、その延長で市政図書室を他でもまねてもよかったのになぜできなかったのか。逆に言うと、日野市であのような実践を可能にした力が何であったのかについてもっと研究が必要だし、それがその後図書館の世界ではうまく拡がらなかったのがなぜなのかももっと研究すべきであるだろう。

今回、日野市を調査して、図書館がネット時代においても重要な役割を果たすのは、資料や情報をストックする機能にあることを痛感した。当日報告したように、調査によって職位が上の職員ほど市政図書室を利用していることが示されていた。これが年配の人ほどネットではなくて紙資料に頼るからだという見方もあるがそうではない。課長クラスの人はネットを使うのは当たり前で、それで不足するものを市政図書室で補っている。何が不足するかと言えば、過去の資料であり、時系列的な蓄積であり、また、日野を中心に多摩地域、東京都、関東一円というように同心円状に拡がる地域的な資料情報の構造である。市政図書室のサービスはそうしたローカルな情報ニーズに対応したサービスをしている。これらはグローバルなネットでは決して実現できない。もちろん、庁内イントラネットなどで実現することは可能であるが、そうしたものを企画するのが図書館のはずである。

行政情報の扱いと行政支援はこのように相互にかかわる。日野にこだわってきたのは、現代公共図書館サービスの出発点である図書館がすでに1970年代にそのような仕掛けをしていることにもっと気づくべきだと思うからだ。足下を見よと。

私は近年、「情報リテラシー」とか「学校図書館」とか「書籍のナショナルアーカイブ」とかについて発言してきた。「行政情報」「行政支援」とかなり違うものを扱っているように見えるかもしれない。だが、自分としては一貫したテーマを追求しているつもりである。それは、「情報共有体制」をどのようにつくるかということである。国レベルでも地域レベルでも組織レベルでも情報の発生は同じ構造に基づいており、その構造に対して情報共有の仕組みをつくるのが「図書館」(これは制度的な図書館に限らない)であり、それを使いこなすためには人は情報リテラシーをもつ必要があるということだ。



4 件のコメント:

  1. オープンガバメントの報告(1)(2)(3)を拝見しました。「情報共有体制」を最後に触れられていますが、私は故宇沢弘文氏の「社会的共通資本」の考え方からアプローチしたいと思っています。「市民の図書館」を丁寧に読みましたが、批判的にあえて言えば貸出中心が基盤とされたうえで、現代の図書館の活動が組み立てられています。私が学校図書館に関心があるもの、別の座標を加えて図書館を考えたいためです。大変、参考となる報告をありがとうございます。

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  2. コメントありがとうございました。宇沢さんの議論は昔読み刺激を受けました。「社会的共通資本」は自然環境、道路や電気・水道・下水道などの経済社会基盤、教育・病院などの生活基盤などを指すものですが、やはり20世紀後半の経済成長を前提とした議論だったと思います。出たのは世紀の変わり目の時期であり、その後、新自由主義経済に大きく舵を切りました。遅れて社会的な認知を受けつつあったた図書館は本来、社会的共通資本の一つになるべきものだったのですが、なり損ねたのではないでしょうか。新公共経営的な行政評価に対応するためには目に見える実績を上げざるをえず、利用者数や貸出数のような数値を確保せざるをえないのです。また人件費はもっとも大きい支出ですから、正規職図書館員の数を減らすことや指定管理制に転換することが選択されがちです。私が行政資料や地域資料、デジタル化やデータベースサービスにこだわるのは、21世紀にはこうした方面のインフラ整備に図書館がなじみやすいからです。

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  3. 図書館の現場では、貸出サービスや児童サービスの拡張として、行政、地域資料、学校図書館やビジネス支援がイメージされているのではないでしょうか。これからの図書館のあり方として理解できます。図書館の実績も市民、住民に認識されてきています。残念ですが図書館理論や「物語」が良く見えないように思います。あえて図書館理論と言いますのは、情報通信技術の発達を、後追いするのではなく、未来の「物語」のようなものです。例えば、(公民館活動のような)社会教育は、危機感をもっています。学校教育は、言うまでもなく改革に直面しています。このような中で、図書館は、「社会教育の機関」のままで良いのか、否か、戸惑います。教育=指導=教化のアレルギーを超えなければならないのかも知れません。杞憂でしょうか。

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  4. 先の5月17日、滋賀県立図書館にて日野市立図書館の館長さんを招いて新しい図書館基本計画の報告を拝聴しました。昨年の図書館大会にも「日野宿探検隊」を紹介していただきましたが、やはり図書館と地域との関わりを主要なテーマとしているようです。私は、日野市立図書館は、「貸出図書館モデル」を先駆的に進め、その後の展開としての実践が豊富にあると感じました。これらの実践の中から、どんな「物語」を描くか重要になります。図書館は、知識、情報を提供するように見えますが、地域の協力する社会を創るための機関になると今のところ考えています。それを地域協働連携と言えば、住民自治になります。これからも日野市立図書館を含め、図書館の実践と理論を学んでいきたいと思います。

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