2017年12月16日土曜日

学校図書館シンポジウム『学校図書館員の将来像:求められるコンピテンシー』の報告

12月3日(日)に、青山学院大学総合研究棟で

『学校図書館員の将来像:求められるコンピテンシー』

という研究集会があった。プログラムについてはこちらを参照のこと。パネリストとして登壇したので報告する。

プログラムのなかでメインの講演者米国ウェイン州立大学のヘルミナ・アンゲレスク教授は、筑波大学に客員教授として滞在している方だが、共産制下のルーマニアで若い時期を過ごし、チャウシェスク政権崩壊後にアメリカに渡りそのまま図書館情報学研究者になった人だという。図書館専門誌Library Trendsの特集「ポスト共産主義世界の図書館:中央・東ヨーロッパ及びロシアにおける四半世紀」の編集者を務めたりしている。

この人の大学があるミシガン州のデトロイト界隈の図書館の事情について話してくれたのだが、rust beltの一画であり雇用事情は厳しいということだ。私が今から30年前に近隣のアナーバーに滞在していたときはまだこのあたりの地域は希望に満ちていた。今では、学校司書の配置が一人が2校を掛け持ちということも一般的だそうだ。それなら、日本と同じに聞こえる。しかし基本的に学校司書はAASLの認定を受けた学校司書資格をもっていてフルタイム雇用の人たちだ。そこを分かった上で話しを聞かないととんでもない誤解をすることになる。やはりアメリカはprofessionalismの国であり、大学院の課程認定をしているAASLを傘下に置くALAはかなり政治的に強力であり、本部はシカゴにあるが首都ワシントンに事務所を置いて政治活動をしているという話しもあった。

私は、日本の登壇者の最後に概略次のような話しをした。注1)

今の大学入試改革=学習指導要領改訂は、図書館職にとってその位置づけを明確にするチャンスである。なぜなら、グローバライゼーション、デジタルネットワーク社会においては日本人ひとりひとりが知的に独立すること注2)が求められているからであり、そのことは文部科学省も理解はしていて、その仕掛けは1980年代から指導要領の改訂として行われていた。しかし今回は大学入試と組み合わされているところが新しい。日本の教育は高大接続がネックだった。入試改革は教育評価の改革である。センター入試を含めて大学入試が細かい知識を問う問題を出すことで、指導要領改訂の趣旨が徹底しないどころか元のものに戻す役割を果たしていた。大学は本来学問研究の府であるはずなのに、そこにうまく接続できない問題をかかえていたわけである。しかしながら、今回は入試を変えることをともなうことで大きく変化する可能性をもつ。

今回の指導要領改訂では、「アクティブ・ラーニング(主体的、対話的で深い学習)」をスローガンとしている。ここにおいて学校図書館は重要な役割を果たす。また、カリキュラム・マネジメントを教育委員会、学校、教員レベルで実施することを提案していて、これは指導要領の規制緩和とともとれる動きである。こういうことで、学校図書館の機能を教育課程と連動させ、それを担当する職員を「(学校内)情報メディア専門職」と位置づけることを提案する。具体的には、通常の図書館的な仕事の他に、次のことを担当するものとする。

1) 読書教育の担当者
2) 各教科における探究型学習の支援
3) 総合的な学習の時間等の横断的な学習活動の支援
4) 教科教員と連携して情報メディア教材(コンテンツ)を整備し活用できるようにする
5) 学校内での教室外学習の整備
6) 情報メディア教育を推進する担当者

これを実現するために、学校図書館関係者・研究者に加えて、学校教育研究者、教育行政担当者とのコラボレーションを行いつつ、政策的な議論を行い、実際に働きかけを行う。

以上である。現状を無視した乱暴な意見のように受け止められたと思う。質疑のなかで、学校のおそらく司書教諭として務めておられる方から、今現在でも忙しいのにこれ以上そのような仕事が増えたらとてもこなしきれないという感想が寄せられた。しかしながら、これは制度全体を大きく変えて専任の「情報メディア専門職」を配置することを想定しての話しである。

私の資料の最初にある「図書館の二重の中抜き構造の始まり」というのは、大学図書館においてデジタルネットワークで資料が提供できる体制が整えば、図書館そのものは「自習室」と「閉架書庫」によって構成されるものになるという話しであり、これを書いた方は、図書館員の必要性があるとすれば、所属大学での研究教育上発生したり流通したりするデータや情報の管理以外にないとしている。これはまったくそのとおりだと思うが、これは大学図書館だけでなく、公共図書館でも学校図書館でも早かれ遅かれ課題になるはずである。

実は日本の学校図書館は、戦後まもなく、この中抜き制度的構造を強いられてきた。それを何とかやりくりして今に至っているのだが、現在はこれを動かすチャンスでもある。ALAがさまざまな政治的働きをしているという話しを聞きながら、日本では何ができるのかと考えてみたものである。このくらいのことを視野において置かなければ、今のラジカル変動する社会状況に対応できないということである。

注1) 資料はここを参照。
注2)「ひとりひとりが知的に独立すること」これは私の近著のテーマである。『情報リテラシーのための図書館:教育制度と図書館の改革』(みすず書房) を参照のこと。


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