2023-07-17

WebOPACと新聞記事検索ツール:野田市立興風図書館のサービス

前回、三つの私設図書館の歴史を辿り、かつての図書館員が資料収集にかけた情熱とそれを支えるための資料についての専門知識、扱うためのスキルについて書いた。また、現在の公立図書館の運営環境では実現しにくいことについても言及した。しかしながら、これはデジタル環境を使いこなすことで展開しうることでもある。そのことについても書いておこう。

公共財/プッシュの情報,プルの情報

6月28日と29日の二日間にわたり、山梨県立図書館で「2023年関東地区公共図書館協議会研究発表大会」が開催されて、そこで「図書館が地域アーカイブ機関であること」という題目で講演した。そのなかで、図書館が提供する資料やサービスの性格が公共経済学での財の分類では、公共財とコモンプール財、準公共財(クラブ財)の3つの特性を合わせもつものではないかと述べた。詳しい説明は省略するが、このなかで地域資料の提供のようなものは、民間機関では提供できない公共財的な性格を強くもつものである。本来、税金で賄うことが正当化しやすいはずのものである。

さらに、プッシュの情報とプルの情報の違いということをお話しした。ネット検索やSNSで表示のアルゴリズムの問題点が指摘されることが多いが、これらは情報提供者からプッシュされる情報であり、受け手は自分で検索語を選んでいるつもりでも、どうしても受け身になる。それに対して、プルの情報とは人が情報の特性と利用の仕方を理解した上で自分の考えで引き出すことができる仕組みのことである。たくさんの商品が並んでいるスーパーで自分がほしいものをカゴに入れるとき、商品知識をもち商品の鮮度や価格などを比較して選択するような態度である。実際には、プルの情報といっても選択できる情報範囲に最初から限界があり、一定程度に販売者からプッシュされていることは常に起こっていることではあるが、そのことも含めて賢い情報利用者、消費者になることが求められる。情報リテラシー教育とはそういうもののはずである。

さて、地域資料であるが、公共財に近い性質をもつものであるとしても、あまり利用がない理由としては、図書館の二階とか隅にあって目立たない、古くさいように見える、その存在が見えにくいなどが考えられる。郷土史に対して一定の関心が継続しているし、学校での自由研究や探究学習で資料提供が求められることも増えている。図書館の他の資料が商業出版物として広告や書店でもプッシュされているのに対して、地域資料は利用者が意識的にプルしなければ使われないことは明らかである。だから、図書館が利用者のプルを支援することを積極的にしなければならないのである。

WebOPACによる地域資料検索

そこでお話ししたのは開架や展示活動の重要性と検索ツールの重要性である。とくに検索ツールについて、WebOPACと新聞記事検索ツールの重要性について強調してみた。これらは比較的簡単にプルの情報を使いやすくするものである。

WebOPACであるが、まず、「簡単検索」がデフォルトでさらに「詳細検索」が用意されているのが普通だろう。特定資料検索の場合には「簡単検索」にキーワード入れるのが簡便だからこれでいいのだが、これはあくまでもプッシュされたものが当該館にあるかどうかを探すための方法である。閉架書庫にあるものも含めて自分がほしいものを探るプル情報検索ツールは「詳細検索」を使わざるをえない。これが使えるものになっているのかどうかは問題である。とくに、当該地域特有のものを検索したいときにどのように使うか。

そこで、WebOPACで地域資料・郷土資料のみを検索できるようになっているのかどうかが重要であるとお話しした。たとえば、山梨県立図書館の詳細検索画面は次のようになっている。




この「資料種別」のチェック欄に「地域資料」があることが分かる。これで何ができるのかというと、チェックがついていてキーワード1で書名に「学校図書館」と入れると、この図書館で地域資料のカテゴリーに入る学校図書館が書名に入った資料が検索できる。



こういう具合である。書名や著者名に地域名がなくとも、地域限定資料を検索するのに使えるわけである。地域は県名、市町村名、旧市町村名、地区名、字名などの地域が重層的に存在するから特定地域名でも検索漏れが出てくる。どんな図書館でも地域資料は自館入力で分類記号等で区別をしているはずである。それを使えば、こういう検索ができる。

図書館システムの導入や入れ替えの時期に要望すれば可能になるはずである。このことはだいぶ前からお話ししているのだが、なかなか採用する図書館がない。と、思っていたら、千葉県立野田興風図書館が次の画面を提供していることに気づいた。


地域資料カテゴリー検索」と名付けられたこの検索方法はなかなか秀逸で、まず地図で地域を限定する。その際に、野田市を中心にして、千葉県の他市町村を指定できるだけでなく、千葉県全体とか東葛地方などのブロックや旧郡というように階層化した地域指定が可能になっている。周辺の茨城県、埼玉県、東京都も指定できる。左側のNDCの指定も階層化されている。このように地域と主題をクロスさせて検索できるアイディアはなかなかいいと感じた。担当者に聞いてみると、これは蔵書データのなかで地域資料にはNで始まる分類記号がついているので、それに対して検索をかけるもので、図書館で開発して提供しているとのことだった。このような手作りによる工夫はうれしいものである。

新聞記事見出し検索

全国紙の地域欄や県域や地域で出ているローカル紙を保存している図書館は少なくない。かつてはクリッピングサービスも行われていた。ここではさらにローカル新聞の検索サービスが気になっていたので、どの程度おこなれているのか調べてみようと思い、講演でその一部を報告した。まず、情報源は国立国会図書館のリサーチナビにある「地方紙の記事索引・検索サービス」である。同館の新聞資料室調べによる。

北海道、東北、関東甲信越まで17都道県の図書館の集計である。このなかで、地方紙の索引・検索サービスは全部62件存在した。うちわけは次の通りである。

新聞社作成 有料 17、無料3
図書館作成 41

無料で使えるものが44件あるということになる。全公図の地域資料調査(2016年実施)では、全国でWebに新聞記事DBを提供しているところが、都道府県で16、市町村で41だったのでそれよりはだいぶ増えている。なお、新聞社作成データベースについては、Gサーチデータベースサービスが全国36の地方紙データベースの情報を提供している。ほとんどが有料DBである。

さて、先の図書館提供のデータベース41件のうち、すべてが見出し語のデータベースで記事本体は提供されていない。このうち、更新中(最新版あり) のものは30件であった。残りは中断している、あるいは、特定時期だけを対象としているものである。見出し語の提供の仕方としては、

データベース形式 24
エクセルファイル形式 17

であった。見出し語の利用については著作権法上は権利侵害にならないとの判決があり、一般的に図書館での記事見出し検索は許容されている。(ヨミウリオンライン(YOL)事件(東京地判平成16年3 月24日判時1857号108頁、知財高判平成17年10月6日)新聞社の許諾をとっていることを明示しているところもあった。以上のもの以外に、館内のみの利用として記事本体を閲覧に供している図書館もあるが実態については不明である。

野田市立興風図書館の新聞記事見出し検索

新聞記事見出し検索のうち、エクセルファイル方式でのサービスを提供している野田市立興風図書館のものを紹介しよう。このようになっている。




1997年以降の全国紙の地方版を対象にした記事の一覧を見ることができる。次は2023年6月分。


担当者に伺うと、これは地域資料担当になったときの学習用にプログラミングの知識を応用してつくったものという。今でも、地方版を1ヶ月単位でまとめて見出し語を入力する作業を継続しているということである。

また、ここにあるファイル全体に対して、検索をかけることができる。以下は「図書館」で検索したもの。



数百件の検索結果が返される。自然言語処理や検索結果表示などに工夫の余地はあるように思われたが、ちょっとした工夫と手間を掛けることによってこうしたサービスを図書館で実施することがわかった。

ブログの前号で図書館員の専門知識と気概ということを書いたが、この図書館が仙田正雄、佐藤真という先達がいたところであることを思うと、その精神が受け継がれていることを感じた。

謝辞

山梨県立図書館での講演およびその後のフォローアップ調査にあたってお世話になった方々に御礼申し上げます。とくに山梨県立図書館丸山直也さん、千葉県立西部図書館赤沼知里さん、野田市立興風図書館川嶋斉さん、ありがとうございました。



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