2022-08-05

文科省の学校図書館行政の展開

今年5月16日付けの当ブログ「「学校教育情報化推進計画(案)に関する意見募集の実施について」への意見」で、文科省のGIGAスクール構想について意見を送ったことを書いた。

「学校教育情報化推進計画(案)」について、公立図書館と学校図書館とを統一的に学習情報資源提供の場と捉えて、すでに存在する情報資源、資料や人的資源とを統合的に活用する条項を含めることを提言します。

という内容の提言である。これの効果があったのかどうか直接の関係は分からないが、最近8月2日付けで文部科学省総合教育政策局地域学習推進課長と文部科学省初等中等教育局学校デジタル化プロジェクトチームリーダーの名前で、「1人1台端末環境下における学校図書館の積極的な活用及び公立図書館の電子書籍貸出サービスとの連携について」という文書が都道府県教育委員会担当部局などに向けて送付された。学校図書館が「授業の内容を豊かにしてその理解を深めたりする「学習センター」や、児童生徒の情報活用能力等を育成したりする「情報センター」としての機能等を有する」として利活用をはかるように指示し、学校図書館と「公立図書館の電子書籍貸出サービスの ID を一括で発行している事例」を紹介してこれを推進しようとするものである。学校図書館が電子書籍を導入することは以前から文科省も勧めているが、公立図書館との連携を積極的に打ち出したことは今後のさらなる新しい動きにつながるかもしれない。

『日本図書館情報学会誌』68巻2号(2022年6月)に「戦後学校図書館政策のマクロ分析」という論文を掲載してもらった。いずれ本文もオープンになるが、今のところは抄録のみを示しておく。関心がある方は図書館等で閲覧していただきたい。

<抄録>戦後の学校図書館の法制度をめぐる教育法および教育行財政状況の変遷を公共政策論的なマクロ分析によって明らかにする。方法として「政策の窓」モデルを用いて,戦後教育改革期, 日本型教育システム期, 21世紀型教育改革期の3つの時期の学校図書館政策の議論の流れ, 政策の流れ, 政治の流れを検討した。こうして, 第2期まで文部省の教育政策の枠外にあった学校図書館政策であったが, 第3期になると言語力・読書力の向上というアジェンダによって, 課題であった司書教諭と学校司書の制度化, 図書費と学校司書配置への国費の充当などの政策が実施されたことを確認した。今後は, 現在の教育改革の次のアジェンダに沿った深い学びと学校図書館を結ぶための基礎研究が必要であることを述べた。

要するに学校図書館政策は一つの動きとみるべきではなくて、複合的な要因がからまって展開しており、現在も進行中と考えるべきだということである。そして、タイミングが重要であり、タイミングを逸しないためには十分に準備をする必要があるということである。さらに、現在は教育課程に関わって学校図書館政策を実現するのに重要な時期だということがある。最後の点については、①学習指導要領に探究学習の要素が多く入っていて学校図書館もそこにかかわることになっていること、②GIGAスクール構想で学習者が端末を操作してデジタル教材を使用する動きがあること、の二つの理由による。

このような論文を書いたあとに、まさにそれに関わる動きが認められたことは論文が実践的な意味をもったものと捉えられる。だからこそぜひこのタイミングを逸しないようしたい。そのために何をすべきなのかなのだが、とくに優先順位が高いのは教育課程や教育方法と学校図書館について理論実践両面から明らかにしていくことである。

私は教育課程と学校図書館の関係については十分に詰められていないと考えている。そのために、戦後間もない時期の最初の学習指導要領1947年版(試行版)で行われた教育実践面の研究を始めた。教育史や学校教育学ではこの時期にコア・カリキュラム運動があったが、その後指導要領の改訂によって挫折したということになっている。だが実際には多様な教育課程上の議論と実践があった。今、研究しているのは「図書館教育」である。教科を超えて図書館を柱としたカリキュラムを実践するというもので、戦後新教育との関係で東京学芸大学東京第一師範学校男子部附属小学校(現在の東京学芸大学附属世田谷小学校)で実施されたものから始まっている。その半世紀後に塩見昇氏が雑誌『図書館界』で「図書館教育の復権」という論文を書いて強調された。それを受けた私の研究の成果は今年中にはお目にかけることができる。さしあたっては拙著『教育改革のための学校図書館』の第3章で簡単に触れたので参照されたい。

少し迂遠なようだが歴史的に戦後教育改革に遡る方法で教育課程と学校図書館の関係を明らかにしようと考えている。実践面では国際バカロレアとの関係や探究学習の方法を検討するSLILの動きにも関わっている。できることからやる他ないが、今回の文科省の動きは少し希望を持たせるものと受け止めている。

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