編集者から本書のカバーとして、何か提案はありませんかというお誘いがありました。前に『情報リテラシーとしての図書館』を出したときは、その数年前にヨーロッパに行ったときに撮った図書館の写真から1枚を選んで表紙の写真にしました。ときどきあの写真はどこの図書館ですかと聞かれるときがあるのですが、北欧のどこかの公共図書館のはずだが分からなくなっています。行った記録と写真をもう一度きちんと整理したいと思っているのですがそのままになっています。
今回図書館の写真はもういいだろうということで編集者側と一致しました。修道院図書館の写真など使いたいものも多く、パリの国立図書館リシュリュー館閲覧室も候補に挙げてはいましたが、最終的には却下しました。最終的に選んだのは、下記の青線に囲まれたコミックのような挿絵です。まだ公開されてはいませんが、これが何を意味するのかは本文中に書いてあるので下記に引用します。オトレとはPaul Otlet(1858-1944)のことで、ブリュッセルで国際書誌協会を立ち上げて後の国際ドキュメンテーション運動の創始者となった人です。日本語版のWikipediaに詳しい伝記情報が掲載されています。この図は彼が晩年に書いた『ドキュメンテーション概論』という本に出てくるもので、要するに書物にある知が書誌やドキュメンテーションの媒介作用によって利用可能になり、人間の知として展開されて再編成される様を表現しています。途中の分類表や目録カードのようなものが書物を経由して学術的な知とつながるところがおもしろいということで、これを採用することにしました。
「言葉を知に変える」という考え方はきわめて多様なものを含んでいて、この本では多様性全体を扱っていますが、とくに図書館情報学につながる部分としては書誌や目録、分類、索引などが重要で、オトレらの考え方は20世紀初頭のベルエポック期の理想主義を基にそれを展開したものです。本書第8講でこれについて述べています。
====以下『アーカイブの思想—言葉を知に変える仕組み』からの引用=======
オトレが書誌からドキュメンテーションへの構想をわかりやすく図示した「世界、知識、学術、書物」をみておきます(図23)。彼が遺した著書『ドキュメンテーション概論ー書物についての書物、理論と実践』(Traité de documentation: le livre sur le livre, théorie et pratique, 1934)に収められているもので、彼の思想をよく示しています。一番下の段の「分類 La Classification」はUDCの分類表であって、ここに知識が秩序化されて示されており、通常はここからアプローチします。下から 2段目「体系知 L’encyclopédie」は知の個々の単位がカードの形態をとって分類の秩序に従って配 列されている状態を示しています。ここにマイクロフィルムや地図や論文が連携すれば、知へのアクセスは容易になります。下から3段目「書誌 La Bibliographie」はその個々のカードである書誌を示しています。これが手がかりに なって知にアクセスします。次の下から4段 目「書物 Les Livres」の段は、書物の形をと って学術の知識内容が文字列あるいは写真で 取り出されている状態を示します。下から5 段目「学術 La Science」(上から3段目)は知識が取り出されて思考の枠組みと対応づけら れている様を表します。下から6段目(上か ら2段目)「知識 Les Intelligences」は受けた人がそれぞれ事物について思考している状態 です。下から7段目(一番上)「事物の世界 Choses」はこうして得られた世界、宇宙についての知ないし真理です。下の方は書誌的プロセスを示し、ドキュメンテーションは書誌によって得られたものが知識として再構成される過程までを含んだ構想であることが分かります。(本文 p.189-190)
図23 「世界、知識、学術、書物」 (Otlet, Traité de documentationより)
「言葉を知に変える仕組み」のイメージが図23により少しできました。ありがとうございます。ユヴァル・ノア・ハラリは、サピエンスは「意味」付けることから「虚構」を創出したと説明します。さらに「虚構」は、宗教や科学技術により大規模な協力社会を生んだと言います。私たちの「世界」は、何処へ向かうでしょうか。「ホモ・デウス」でしょうか。もしかすると「学術」から「知識」が取り出され「世界」を構成する仕組みに関わるかも知れません。
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