3月25日(日)の午後1時から4時まで慶應大学三田キャンパスで、公開ワークショップ「図書館はオープンガバメントに貢献できるか」を開催した。終了してからすでに4週間近くになるが、新学期になっていろんなことに時間をとられて書けなかった報告をここでしておきたい。公式の報告はホームページで行っているので、ここは個人的な視点からの報告である。
まず年度末の日曜日のお忙しいところ、ご参加いただいた講演者の豊田高広さん、コメンテータの伊藤丈晃さんに感謝申し上げる。研究者的な観点からではまったく成り立たないこのテーマについて、図書館現場、自治体行政現場からの生の声を届けてくれたので、議論はかなり現実に迫るものになった。そのことは後で報告する。
とくに事前登録もなしに開催したので、どのくらいの人が来てくれるのか読めず、いったん確保した70人規模の部屋を倍の人数が入る部屋に変更した。実際の参加者が70人だったので、この変更をしてよかったと胸をなでおろした。前のままだったら、参加者には窮屈な思いをさせてしまっただろう。ただ、あの部屋は二つの教室を縦につないだような変に細長い形をしていて、議論する場としてはふさわしくなかった。誰かがこの部屋は試験にちょうどいいと言っていたが、確かに一斉に答案を配布して一斉に回収するのに向いていた。
登壇者の発言については公式HPにまとめておいたのでご覧いただきたい。今回オープンガバメントという用語を使ったのは戦略的なように見えたかもしれないが、実を言えば単なる思いつきだった。今さら、行政情報とか行政支援サービスとかいったところで、それほど多くの人の関心をもつようには思えなかった。少し頭をひねって、最近、オープンデータとか、オープンアクセスとかの言葉がよく聞かれるので、これを使おうと思った。オープンデータが話題ではあるが、それ自体は私自身の関心事ではない。ただそのノリでちょっと前に話題になったオープンガバメントだと、関係者が共有する「ある部分」に働きかけるのではないかと思いついたのだ。
「ある部分」とは、図書館がもつ組織からの中立性という理念である。思想や言論、情報、知識といったものを扱う機関は、母体となる親機関から独立した作用をもつ必要がある、という考え方である。これは図書館関係者には「知的自由」(アメリカ)、「図書館の自由」(日本)という概念で理解されている。その実現に関してはさまざまな難しいものがあるとしても、そこから出発する図書館サービスは政府の透明性を説くオープンガバメントの考え方と相性がいいように思われた。その読みが正しかったかどうかはまだ判断できない。しかしながら、それなりに多くの人の関心を引いたことも事実である。
行政情報とか、行政支援サービスといった表現を使っても、図書館関係者の受け止め方は「とてもそんな余裕はない」か「そんなことはすでにやっている」のいずれかになる。多くは前者で、そんなところまではなかなか手がまわらないというものだと思う。だが、所属自治体の行政資料を集めていない図書館はないだろうし、私の報告でも触れた全国公共図書館協議会の「課題解決支援調査」では42%の自治体が何らかの行政支援サービスを実施していると回答している。図書館は自治体行政の一部であって、常に行政との何らかの関係はあるから、こうしたサービスをいくぶんは行っているのである。しかし、どのようなサービスをすれば、行政情報を市民に提供していることになるのか。それが、これに参加した人たちの中心的な関心であったと思う。
それに応える議論ができたかというと、残念ながらそういう展開にはならなかった。それはいくつかの理由があったと反省している。ひとつはワークショップ方式を謳ったが、やり方が中途半端だったことである。前半はシンポジウム、後半は参加者によるワークショップと考えていたが、後半は議論する前に終わってしまった。参加者には多数の質問・意見を書いていただいてそれを整理してお答えしたり、議論したりしようと思っていたが、思った以上に多数の質問や意見の数が多く、とても処理しきれなかったのである。この点、登壇者や参加者、とくに質問、意見をお寄せくださった方には失望感を与えたのではないかと反省している。
ただ、こういう事態はあらかじめ予想できたとも言える。参加者の3分の2の方が質問・意見を積極的に寄せてくれたということは、この問題が1時間程度の議論で解決できるようなものではなくて、今後とも長期的に議論していかなくてはならないような性格のものだったからである。そのためもあって、質問や意見はまとめてHPに掲載した。今後のこの種の議論はここから出発すべきだろう。そういう生の素材を集める役割を果たしたことで最低限の役割を果たしたと考えている。
素材の今後の扱い方についての私の考えを次に書いておく。
2018-04-20
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