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2024-11-02

新著『知の図書館情報学―ドキュメント・アーカイブ・レファレンスの本質』(11月1 日追加修正)

10月30日付けで表記の本が丸善出版から刊行されました。11月1日には店頭に並べられたようです。また,丸善出版のページAmazonでは一部のページの見本を見ることができます。Amazonではさらに,「はじめに」「目次」「第一章の途中まで」を読むことができます。

本書の目次は章タイトルとコラムタイトルしかないあっさりしたものなので,詳細目次を掲げておきます。

==詳細目次=============================

『知の図書館情報学−ドキュメント・アーカイブ・レファレンスの本質』詳細目次

はじめに 

第Ⅰ部 知識資源システムの構成要素と関係

第1章 知識資源システムとはなにか
1.1 図書館情報学における知識資源
1.2 ⻄洋思想における図書館の位置づけ
1.3 日本の近代化と知識の獲得
1.4 カノンの変遷とアーカイブ
1.5 知識資源システム、情報リテラシー、独学
第2章 知識資源の多元的なとらえ方
2.1 知識と知識資源
2.2 客観的知識論
2.3 データ,情報,知識,知恵
2.4 ドキュメント
第3章 知の関係論としてのレファレンス理論
3.1 他者の言葉を利用する
3.2 レファレンスの理論構築に向けて
 レファレンスとは何か
 言語・記号のレファレンス
 分析哲学の指示理論
 言説と著作のレファレンス
3.3 レファレンスツールとレファレンス理論
 レファレンスツールの類型
 指示理論の適用
 書誌的な参照関係の拡張
3.4 ネット情報源への展開
 データベースの可能性と限界
 ハイパーリンクと Linked Open Data
 識別コード
 引用ネットワーク
 インターネット・アーカイビング
3.5 レファレンスサービス再考
 レファレンスの拡張
 今後のレファレンスサービス
3.6 おわりに
コラム1 「メタファーとしての図書館」
迷宮、バベルの図書館
夜の書斎とアルシーヴ
AI 図書館とシュワの墓所

第Ⅱ部 知識資源システムの様態

第4章 知のメディアとしての書物:アナログ vs.デジタル
4.1 メディアの身体性
4.2 コンテナとコンテンツ
4.3 書物はなぜ重要なメディアたり得ているのか
 文字言語の特性
 書物の特性
4.4 電子書籍としての拡張
4.5 制度としての電子書籍ー国立国会図書館の動き
 オンライン資料納本制度
 国立国会図書館デジタルコレクション
4.6 書物の知的リンク構造について
4.7 書物のメディア変遷
第5章 知は蓄積可能か:アーカイブを考える
5.1 尊徳思想のアーカイブ
5.2 ⻄洋人文学における書物の特権性
5.3 人文主義における図書館の役割
5.4 知のレファレンス:理念と方法
5.5 デジタルヒューマニティーズと新文献学(new philology)
5.6 おわりに
第6章 ドキュメントとアーカイブの関係ーニュートン資料を通してみる
6.1 アーカイブとは何か
6.2 アーカイブズとドキュメントとの関係
6.3 ニュートン資料に見る知のアーカイブ
 ニュートン像の変遷とアーカイブズ
 ニュートンが残したもの
 ニュートンのアーカイブズ
 ドキュメントにみるニュートン研究
6.4 ニュートン関係アーカイブの特徴
コラム2「図解・アーカイブの創造性
アーカイブの過程
ライブラリーの過程
ニュートン研究における創造性
第 7 章 国立国会図書館による知識資源システムの展開
7.1 国立国会図書館を取り上げる理由
7.2 ナショナルな知識資源プラットフォームの形成
 日本全国書誌と NDL サーチ
 出版流通の情報 DB
 出版流通と図書館のデータベース
 CiNii Books とカーリル
 知識資源プラットフォームの概要
7.3 知識資源プラットフォームの拡張
 Google Books の衝撃
 デジタル化を睨んだ書籍のナショナルアーカイブ構想
 NDL のデジタル化戦略
 オンライン資料の納入と館外送信
7.4 知識資源と図書館
 デジタル環境の知識資源
 コレクションを知識資源に変える
コラム3「函館図書館,天理図書館,興風図書館:地域アーカイブの原点」
函館・天理・野田興風
舌なめずりする図書館員」
戦後図書館の隘路

第Ⅲ部 知識資源システムへの図書館情報学の射程

第8章 書誌コントロール論から社会認識論へ
8.1 書誌コントロールとは何か
8.2 イーガンとシェラの理論
8.3 新しい社会認識論
8.4 LIS における社会認識論の展開:ドン・スワンソン
8.5 パトリック・ウィルソンの社会認識論
8.6 ポストトゥルース時代の社会認識論
コラム4「知識組織論(KO)のためのオンライン専門事典」

第9章 探究を世界知につなげる:図書館教育のレリヴァンス
9.1 デューイと教材,学校図書館
9.2 探究と世界知
 探究とは何か
 人文主義のクリティックとカリキュラム
9.3 関係概念としてのレリヴァンス
 シュッツのレリヴァンス
 レリヴァンス概念の展開
 サラセヴィックのレリヴァンス論
9.4 戦後学校図書館政策のドメイン分析
 ドメイン分析とは何か
 教育課程と学校図書館の関係
 図書館教育のレリヴァンス
9.5 世界知のためのカリキュラム
 教権という桎梏
 探究から世界知へ
9.6 おわりに
コラム5「戦後学校図書館と知識組織論」

知の図書館情報学に関する文献案内
あとがき
注・引用文献
索引
==詳細目次終わり==========================

この目次を見るだけでも,多様なテーマを多様な方法で多様な対象をもとに論じていることがわかるかと思います。全体の流れは,第Ⅰ部は「知」とはなにか,それを図書館情報学でどう扱うべきか,その際にドキュメントやアーカイブ,レファレンスといった概念を補助線として使用することによって見通しがよくなることを述べています。第Ⅱ部では,それらの補助線を使って,書物とは何か,それを蓄積することの意義について述べ,ニュートン関係の資料が多様な性格もつことについて科学史の知見をもとに論じます。また国立国会図書館のナショナルな書誌コントロールがデジタル化によって変貌しつつあることなどを取り上げます。第Ⅲ部では,まず20世紀の図書館情報学で書誌コントロールが重要な理論であったことから始まり,それが世紀を超える頃に社会認識論への展開を示す過程について述べます。最後の章はドメイン分析という方法を日本の戦後教育改革における学校図書館政策に適用してうまくいかなかった理由を探ります。

どれひとつとっても日本の図書館情報学ではほとんど論じられてこなかったものなので,面食らう読者も多いと思います。補う意味で,コラムを5本立てて,分かりやすく具体例を解説することも行っています。

執筆の背景

この本は、『アーカイブの思想ー言葉を知に変える仕組み』(みすず書房, 2021) の出版後に、求められて書いたり、お話したりした内容をまとめたものです。ここ数年間で学校図書館論アーカイブ論を二本の柱として世に問うことを考えてきました。また、『図書館情報学事典』(丸善出版, 2023)の編集に携わってきたこともあり、図書館や図書館情報学のことを考える際の理論的枠組みが弱いことを感じてきました。かつて、『文献世界の構造ー書誌コントロール論序説』(勁草書房, 1999)という本を書いて、この領域における理論書として異彩を放っていたことは確かでしたが、その後、その方面を追究することは怠っていました。その意味では、本書は四半世紀ぶりの改訂版といえないこともありません。そういえば、アレックス・ライト『世界目録をつくろうとした男―奇才ポール・オトレと情報化時代の誕生』(みすず書房)が最近刊行されたのも偶然ではなく、このあたりは一つの流れになっています。

それは何か。一言で言えば、知のコミュニケーションということです。「知」とは「知識」「情報」「データ」などの上位概念と考えていいのですが、図書館情報学はこれらを「資源」と捉えてきました。「知識資源の組織化」とか「情報資源論」などという用語が使われます。では知と知識資源や情報資源はどのように違うのか。知を扱う学問として哲学があります。哲学は、人は世界をどのように見ているのかというように基本的に個人の認識から出発する学問です。哲学では、認識は一人ひとりのものであり、その結果が資源化されて利用されるというような発想にはなりません。ここからわかるように、資源化するためには何らかの別の操作が必要で、図書館ではこれを資料というパッケージとして扱うことが一般的でした。図書や雑誌論文、視聴覚資料といったものです。こうした資料を利用しやすいように分類したり、目録を作成したり、図書館に排架したりするわけです。また、こうした資料を利用者に提供するための方法としてのレファレンスサービスや読書案内、通常の資料では難しい人ためのメディア変換や物理的保存のためのメディア変換といった手法やスキルが図書館情報学の中心でした。そのための方法の開発はすでに1世紀以上の歴史があるわけです。図書館(情報)学は知を図書とか雑誌とか、DVDとかに納められているものをメタデータを操作することによって扱います。直接中身をいじらずにパッケージのラベルを操作することで、知を扱っていることにしていました。

ところが、20世紀末からの情報ネットワーク社会の到来によって、大きく変貌することを余儀なくされます。ネットワークにおいて扱われる知は、パッケージ毎扱うよりも、中身が見える形で扱われるようになります。このブログでも中身そのものが見えます。こうなると、パッケージ操作はいかにも煩わしく、すべての知はネットワーク上で扱う方がよいということになります。実際、今、ネット上で生じているのはそういうことです。まだ紙媒体の図書や雑誌、新聞があります。しかし、これはそうしたものに慣れ親しんできた世代が市場を支えているから出されているのですが、時間の問題だと思われます。(個人的には書物というメディアについて紙媒体の優位性は明らかで、なくなることはないと考えますが、市場で取引される以上、どんどんシェアが小さくなるでしょう。)

図書館情報学はネット社会に入る以前から知を資源として扱う分野でした。それはこの分野が他の関連領域に対してもつ最大の優位性です。しかしながら、この分野は図書館という場における知識資源の扱いばかりしか見てこなかったことも事実でその意味で歯がゆい部分もありました。本書はその意味で、知を資源化したあとの扱いではなく、知とは何か、知を資源化するとはどういうことかも含めて、この分野が他の学術領域とどのような関係になるのかについて考察しようというものです。

この問いに基づき書き進めている最中に、同じような問いを深く広いレベルで議論している一連の論考があることを知り驚きました。それが、本書の「コラム4」で紹介した「知識組織論事典(IEKO)です。その意味では、本書はこの事典で本格的に展開される知識組織論の入門書的な位置づけにもなります。そのこともあり、この事典の読書会を企画して、図書館情報学の基礎理論を皆で学ぼうという「知識組織論研究会(KORG_J)」の呼びかけにもつながりました。

本書は今後の図書館研究、図書館情報学研究の出発点になることを意図しています。SNSでのフェイク情報の存在が大きな問題になったり、AIが実用段階に入ったことからもわかるように、ネットで知が扱われていますが、その知はデータの集合体で構成されています。本書の第2章で次のDIKWピラミッドを扱いますが、これはデータ→情報→知識→知恵という過程で上に行くほど知の行為が精選されて一般化していくという考え方で、もっとも基本的な部分にデータがあります。しかしながら図書館情報学ではこのピラミッドモデルはマーティン・フリッケによって批判されます。今のAIもデータから知識や知恵が生み出されるということからこの考え方を採用しているとも言えますが,どこに問題があるのか、本書とともに考えてみてください。



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本書と関わって次の書籍が同じ出版社から刊行されています。

パトリック・ウィルソン 著 齋藤泰則訳
知の典拠性と図書館—間接的知識の探究
丸善出版
2024年09月

原書名:Second-Hand Knowledge: An Inquiry into Cognitive Authority(1983)

この本は,本書の第8章で言及している20世紀後半の図書館情報学研究者パトリック・ウィルソンの三部作の掉尾を飾る一冊です。